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グチャッ...。ポキッ...。骨の砕ける音が、のどかな緑に響き渡る。クマは狐にのしかかり、いまだその小さな体を虐めていた。狐はすっかり大人しくなっているものの、意識はハッキリおしていた。 (痛い痛い痛い痛い) もうそれしか考えていられない。意識を手放そうと試みるも、生命力だけは並外れているのでそれも叶わない。地獄だ。死ぬことが許されない地獄。一体どうして自分はここまでしてあの人間を庇ってしまったのか。スイは不思議で仕方がなかった。今まで、木の上から神社に来る人々を覗くことはあった。それなのに、あの時、悠悟がやって来た日のことだ。 よくよく考えてみれば、幸せオーラを感じたいからと言って人間に近づくなんてこと、今までなかったじゃないか。京蘭にだって、人間は危険だからむやみに近づくなよと、キツく言われていた。それがどうして、自分はあの時。 生き物というのは、命の危機が迫っていると、いくらでも他人や自分をを責められるようだ。 (わしは何であの時悠悟に近づいたりしたんじゃ...!そのせいで今こんなに痛い思いを...!) どれだけ悔やんでも、興奮したクマは身を抉るのをやめてくれない。子グマは、何が起こっているのか理解できていないようで、辺りを不安げにうろついている。ああ、悠悟はちゃんと京蘭様を呼びに行ってくれただろうか。少々遅いんじゃないか。痛い、疲れた、もう死にたい。 だけど、神さまはちゃんと助けに来てくれるものだ。 血の匂いでむせ返りそうな森の奥。突然、激しい風が吹き荒れた。ビュオオオ...、と、静かに、でも強く怒るような風。クマはピタッと動きを止めて、天を仰いだ。 (ああ...。遅いじゃないか) 銀鈴の美しい音が聞こえて、スイは意識を手放した。

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