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お見舞いに来ました

「はよ入れ、悠悟!」 影がスイの声に驚いて、大げさに揺れる。まさかの元気そうな声に、入るのを少々ためらっているようだ。 「し、失礼してよろしいでしょうか...?」 「だから、いいと言っておるだろう!早く、早く」 「は、はーい......」 スーッ、と、ふすまを開ける。途端、尻尾をはちきれんばかりにブンブン振る妖狐の姿が目に飛び込んで来た。あまりに元気そうで、三日分の心配は一気に吹き飛んでしまった。 「スイ様!よ、良かった...!生きてる...」 悠悟はせわしなくスイに駆け寄り、スイの手をぎゅっと握った。すると京蘭が眉を寄せ、その手をペシっと払った。 「っ!いてて...。静電気っすかね...?」 しかしその姿は悠悟には視えていないため、もちろん相手にされることは無い。むっすうとした京蘭の頭を、スイは同じようにペシっとはたいてやった。 「子供じみたことはやめるんじゃ、京蘭様」 その言葉に、悠悟はハッとなった。 「京蘭様...って、あの時の!あの、もしかして今もここにいらっしゃるんですか...?」 「ん、そなたの真横におる」 「へっ!?」 ギョッとしてその場を飛び退く。当の京蘭は、腕を組んで悠悟を睨んでいた。 「なあ、スイ。こいつに、火あぶりか水責めのどちらが良いか聞いてくれないか」 「あほっ!火あぶりも水責めもせんよっ!?」 スイの言葉を聞いて、青ざめる悠悟。 (やっべ...。やっぱ怒ってるじゃん!!昨日も鳥居に視えない壁みたいなの張ってて入れなかったし...) そんな悠悟の様子に気がついたスイは、とっさに穏やかに微笑んでみせた。 「安心せえ、悠悟。京蘭様は、そなたが無事で喜んでおる」 「そ、そうでしたか...」 (さっき火あぶりとか水責めとか聞こえたけどな!) んーっと伸びをして、スイはチラリと悠悟を見た。 「それで...。水まんじゅうはまだかの?」 この狐は250年ちょっと生きてきて、いまだ遠慮というものを知らない。 「ああ、手紙読んでくださったんですね。友人に教えてもらって作ったんですが、なんせ初めてで...。お口に合うと良いのですが」 どうぞと差し出された、光輝く宝石のようなもの。 「うおおおお......!ありがとう悠悟、いただきますっ」 もぐ。 「...っはー...」 一口食べるなり、恍惚の表情。頰を蕩けさせて、最大の賛辞を送る。 「んまーい!!悠悟、お前は神なのか?お菓子の神なんだな?」 「ほ、本当ですか。神では無いですけど...。へへ、良かった」 (......!!!) スイは、悠悟の笑った顔を初めて見た。そしてなぜだかほんわりとした気持ちになって、同時に今までのことを申し訳なく思った。 「悠悟...。その、初対面の時は色々、怖がらせてすまなかった...。まさかわしのことが視えるとは思わなくて、好奇心が芽生えたというか」 「い、いえ!いいですよ、そんなの。俺もびっくりして、無視とかしちゃったし」 (まあ遺言書いたのは失敗だったけど...。後から読んでめっちゃ恥ずかった) ちなみに遺言の中身はこうだ。 『父さん母さんへ 短い人生でしたが父さんと母さんの子で良かったです。俺の部屋にあるパソコンの中身は見ずに、すぐ燃やしてね』 こんな感じの文が長々と綴られており、友人のものと柚香へのものもある。今更見られても困るので、とっくにシュレッダーにかけてしまったが。 「それにしても、妖狐って本当に居るんですね...。俺、未だに信じられません」 「ん、人間には入れない次元に、1万は住んでるぞ。天皇もいるし。それに比べても人間は、数が多すぎやしないか?何度か街に行った事があるが、めまいがした」 そこに、すかさず京蘭が口を挟む。 「スイっ!お前、私に黙っていつの間に...!?あれほど行くなと言ったでしょう!」 スイは耳をパタンと折って、聞こえないふりをした。 「悠悟も街に住んでるのか?」 「スイっ、聞きなさ「そうですよ。すずのき市のマンションに住んでます」......」 「まんしょんってなんじゃ?」 「えーっとね...」 京蘭は、1人で風を起こしては消すのを何回もやった。これは、イラついている時の癖。何とも人間くさい神様だ。

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