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第4話 スイの弟分
「おい、お前人間とつるみ始めたって本当かよ」
ヒュオオオ...と強い風が吹く9月の午後。鈴木神社から3km程離れた、大きな洞穴の中で、鬼と妖狐が駄弁っていた。
「悠悟の事か?あいつなら今朝も社に来てくれたぞ。午後は大学があるから、一緒に遊べんみたいじゃけど...」
ずううんと負のオーラを纏うスイ。
「ンだよ、ガキか。ちょっとあそべねーくらいでよ。つか、何で人間なんだよ。意味分かんねえ」
「意味分かんねーとはどういう事じゃ、伊吹 。別にええじゃろ、人間と遊んでも!」
すると、伊吹――金髪ツンツン頭で赤い瞳の鬼だ――は耳元のクナイ型の飾りをいらただしげに触った。
「ふざけんな。あんな鬼殺しの外道種族、俺はごめんだぜ。大体お前、さっきから人間くさい。洗ってからこいよ、俺の寝床が汚れる」
カチン。
「なんて事を言いおる!そなたの寝床なんぞ元から汚れとる上に、岩がゴツゴツしとって休めんじゃろが。故に、未だにチビのままなんじゃっ」
「チビいうなっ!!」
世に知られる所の鬼より、遥かにミニサイズの伊吹。背伸びがいいと聞いて、最近は日々の筋トレにも取り入れている。
要はコンプレックスなのだ。104年生きていると言っても、人間で言えばまだ15かそこらの思春期真っ只中。チビと言われると結構傷つくものだ。
「ああ、でも伊吹?人間の間では、小さい男が流行りらしいぞ?よかったのう」
「よかねえよ、阿呆が。人間はやっぱ変だな。男といえば、デカくていかついのがカッケエに決まってる」
「む。悠悟は背が高いし、カッコいいぞ。んー、でも、いかつくはないのう。何と言えばいいのか...こう、ほら。イマドキの、じぇーでいー?」
悠悟の影響で最近覚えた言葉をなんとか使ってみる。...が、案の定鬼の子は赤い目を細めた。
「俺の知らん言葉を使うな。イマドキだかじぇーでいーだか知らねえが、本当にやめとけよ、そんな得体の知れない奴」
すると、スイが頰をぷくっと膨らませる。伊吹がつつくと、しぼまずに跳ね返ってきた。ダンッ!と足を踏みならして、スイが立ち上がる
。
「もうええっ!チビには一生悠悟の良さは分からんもんね!」
「はっ...、チビじゃねえし!」
「帰る」
「二度とくんな!」
ボフンッ。
スイは本来の狐に姿に変化し、鈴木神社へと駆けて行ってしまった。だけどこれはもう日常。種族は違えど兄弟のように接しあう二人は、すぐに言い合い又は殴り合いになるのだ。
口では引き分け、力ではいつも弟sideの伊吹が勝つ。ただ、傷だらけのスイを見た京蘭が血相を変えて伊吹宅に乗り込んで来るため、結局伊吹は両親にげんこつをくらう。
つまり、
「お宅の息子さんがうちの子を殴りましたよ。慰謝料払って頂けますよね?」(←京蘭)
「まっ!またあの子が...。本当に申し訳ありません」( ←伊吹母)
「またお伺いします」
「はい、すみませんでした...」
「ただいま、ババア」(←伊吹)
「オイ、テメエ人様の子殴んなってコレ何回めだ、ア“?」
...みたいな感じだ。血は繋がっていなくとも、京蘭はスイをかなり過保護に扱っている。
「...ったく...。俺はどうなっても知れねえかんな...」
ツンツン頭をくしゃりとさせて、ため息をつく伊吹であった。
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