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ふわふわ

「あー...。俺もここ、好きだなあ...。落ち着く」 扉は障子で一見他の部屋と変わらないのだが、開くとそこは別世界。部屋は、野外のようだった。というか、不思議なことに野外だった。 深い緑の木々、可愛らしい小さな花。上を遮るものは無くて、美しい青空が広がっている。 ここは、例えるなら中庭だった。 スイは柔らかな草に身を預け、悠悟を隣に手招きした。 「わ、桜?凄え、今9月なのに」 花びらが風に乗って飛んでくる。 「桜は春だけのものじゃないからな。ん...ふふ、なんじゃ、ふわお。...っくすぐったい、あはは」 スイの周りに白いふわふわした物が漂っていて、悠悟は目を見開いた。ふわふわの真ん中に、なんと顔がある。 「スイ様、それって...」 「くくくっ...、悠悟、紹介しよう。こいつは妖精のふわお。わしが付けた名じゃ!...ん、どーした、ふわお」 「妖精......」 (そのタンポポの綿毛みたいなのが!?) 妖精と聞くと、大半の人間は某ネバーランドのあれみたいなのをイメージするかと思う。だが、あの姿になれるのは一人前の妖精だけだ。ふわおはまだ赤ちゃんなので、形がイマイチ安定しない。 それはともかく、悠悟はスイと出逢ってから不思議なものがよく視えるようになった。スイやふわおのような穏やかで可愛らしいものは良いのだが、それは非常に珍しい例だ。 この間は大学の実験室で自殺したという霊が、一日中付きまとってきた。鈴木神社に行くといつのまにか消えており、ホッとしたのを覚えている。 こんなこと友人には相談出来ないし、柚香に言えばフラれてしまうかもしれない。彼女は根っからの怖がりなのだから。 (ま、そういう所も可愛いんだけどねー...にへへ) 1人回想にふけりニヤけていると、冷ややかな視線を感じて、ハッとする。 スイが、今までに見た事の無いような顔で悠悟を見つめていた。――真顔だ。常に顔を動かしているスイが、今や表情筋を失ったかのようになっている。 ふわおも、スイのケモ耳に隠れて真顔になっている。 「スイ様、あの、これは違います!あれです、ふわおが可愛くて微笑んでただけで...」 必死で弁解をする。 「悠悟、ふわおはただでさえ人見知りなんじゃ。そのような気色悪い笑みを浮かべてもらうと困る」 「きしょ...っ、す、すいませんでした...」 まさか彼女のことを思ってニヤていましたとは言えず、冤罪ながらも謝ることにした悠悟だった。気色悪いと言われたのは、結構ショックだったが。 「まあ良い。...ふわお、この人は悠悟じゃ。こんなんだが、決して怖くないぞ」 (こんなん...) 悠悟は今メンタルが瀕死状態だ。 「ふ、ふわ......?」 「ああ、そうじゃ。わしの友達。だから、怖くない。優しいぞ?」 「ふわー...」 そこで悠悟は、この妖精の鳴き声(?)は、「ふわー」である事を知った。可愛い。かなり癒される。 (そういや、まだ挨拶してなかった) 「あ...っと、ふわお。俺の名前は平口悠悟。えーと、さっきは怖がらせてごめんな?」 少々ぎこちなくも微笑んでみせると、ふわおは若干表情を緩めて、そろそろとスイの耳から出てきた。 「...ふわ」 「よろしくねと言っておる」 「マジすか」 少しは汚名返上できたかと、一息ついた悠悟だった。

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