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ファンタジックな物語
その後、言葉の分かるらしいスイを通訳にして三人はしばしおしゃべりを楽しんだ。
穏やかな空間で時間はのんびりゆるりと過ぎていく。
そして、ふわおはすっかり悠悟に懐いてしまった。
「ふわ〜、ふわ、ふわ〜!」
「悠悟、好き。ふわお、好き。悠悟、いい人間」
もちろん、人間にこの短時間で妖精の言葉を理解する能力は無いので、通訳付きだが。
「あはは、ありがとふわお。ふわおは可愛いな」
にまにまと表情筋が緩んでしまう。はにかみながらもふわっと笑う妖精に、もうすっかりメロメロだ。
もともと、現恋人の柚香にも、その癒しオーラに惹かれてアタックしたのだ。ふわふわ系には弱い。もちろんふわおに対するそれに恋愛感情はない。今、悠悟の心は慈愛に満ち溢れている。
柔らかい綿毛のような体を頰にすり寄せられる。どうやらかなり心を許してくれたようだ。
スイもそうだが、人外は割と人懐っこいのかもしれない。素直な証拠だ。
「あー!悠悟を独り占めするのはやめんか、ふわお!わし、もう通訳してやらんぞ」
尻尾をパタパタさせてヤキモチを妬く狐の姿に、悠悟は昇天しかけた。
(ふわふわ妖精に懐かれ、ケモ耳に嫉妬され...。そうか、ここが天国か)
動物好きの悠悟なので、この時間はパラダイスでしかなかった。
実はこの緑の間、ふわお以外にも妖精らしきものがたくさん住み着いている。先程から悠悟の周りを興味津々でウロチョロしており、小さな声まで聞こえる。だけどそれは妖精にしかわからない不思議な言語。
「*#%…/?」
「…#£,.!」
鈴の鳴るような声...というよりか、脳内に直接響いてくるような声だ。幻聴に近い。
――余談だが、幻聴は自身で止めようと思っても聴こえてきてしまう音で、妖精や、何かのお告げは「やめて」と言うと何かしらの反応があるものらしい。金縛りのときに聴こえてくる声は明らか幻聴だ。まあそれも個人の思想の自由があるし、幽霊否定派と肯定派の争いに巻き込まれてしまうのであまり言えないが...。
アラフォーのスピ女のような知識をひけらかしてしまった。話を戻そう。
緑の間は、和風な名前に反してファンタジーゲームに出てきそうな所だ。青々と茂る草、穏和な木漏れ日。建物などの人工物は一切ない。
(俺、入ってよかったのかな...)
もちろん京蘭に内緒で来ているのだから入ってはいけないのは承知している。だがそういう意味ではなく、こんな聖なる所に人間の自分が侵入すると、一気にそこら辺の草花が萎れるのではという心配だ。野原に預けた腰に、心なしか力が入る。
宙に浮く生き物の妖精が住んでいる所なのだ。ここの草はきっと重力に耐えるという事を知らないだろう。スイの体重も、きっと砂糖1g程度しかない。...それは言い過ぎたが、彼は仮にも妖狐なのだ。何かしらの不思議な力で、彼の重力が大地に伝わらないようになっているに違いない。
それはともかく、スイに膨れられたふわおが泣くのを必死で我慢している。
「ふわ...っ、ふわあー...」
ツンとしていた狐の毛並みが、緊張したように逆立った。
「ぐっ...!ち、違う!冗談だ、冗談!わしが悪かったから、泣くなっ」
「ふわ...?」
「そうじゃ、冗談。まったく、ふわおは思い込みが激しいんじゃからー」
スイの姿はまるで甥っ子を泣かせて焦る叔父のようで、悠悟はほほーと感心した。
(スイ様にも大人な一面があるんだなあ)
今まで幼い言動が目立ったこの妖狐だが、自分より小さいものや弱いものには安心感を与える事が多い(ただし伊吹を除く)。
いくら妖狐の中では成人を迎えていない半人前の青年でも、もう御年251歳。還暦は191年前に迎えている。
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