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赤ずきんの檻 14
「な に?」
辿々しい問いかけは、ソレが意味するところを理解していないのが明白な声音だった。
発情期の性交中にαから項を噛まれたΩは、そのαの番いとなって他のαを受け入れなくなる。
その契約が一生に渡り、死が二人を分つ瞬間まで続く。
自身がΩだったことも知らないあかは、そんな知識も持っていないようだ。
「 」
大神の眉間に深い皺が寄る。
「あ 」
鋭い歯が頸に触れた瞬間、あかはくすぐったそうに身を竦めた。
「 」
「ふ……ぅ ?」
ぢゅ と音がするほどの強さであかの襟足に吸い付いた大神は、あかに残した痕に鼻先を擦り付けた。
吸いつかれた部分の熱さに、あかは戸惑って身を捩る。
「 」
唇の離れた先に、赤い花弁が落ちる。
白い頸に残された痕を一舐めして、大神は大袈裟に溜め息を吐いて髪をかき上げた。汗で濡れたそれは重く、自然と「暑い」と言葉が漏れた。
「 うン、 あ つい」
あかもそう言うが、大神にしがみつく手の力は緩まないし、腰は小刻みにゆっくりと動き続けている。
「脱ぐか?」
「 」
ぼんやりとした目が大神を見、その背広へと移る。
服では隠しきれない厚い胸板にあかの手が這い、するりと中に入っていく。
「おー がみ、さんの、 んっ、か、らだ さっ」
「触りたい」の言葉は背筋を駆け上がる痺れに消え、それを乗り越えるために固く瞑った目から涙が一筋伝う。
縋り付いたシャツ越しに隆々とした筋肉に触れ、しっとりとした体温と弾力にあかの目が瞬いた。
「 さ、わ 」
あかが伸び上がってキスを強請る。
小鳥のように啄んだ後、あかは大神のシャツのボタンに手をかけた。服を乱していくあかを大神は止めず、額に滲ませた汗以外は情事中だと思わせない表情でそれを眺めた。
あかの細い指が素肌とシャツの間に躊躇いもなく入り込み、汗でしっとりとした筋肉を堪能するようにゆっくりと動かされた。
鍛え上げられた肉体に、この牡はとても良い牡だと脳裏の何かが囁きかける。濃いフェロモンの匂いもするし、巨躯であり尚且つ男らしい顔立ちをしている。
人の上に立つのだろうことも、その立ち居振る舞いで十分にわかる。
「ん ぁっ」
きゅう と下腹部が切なく収縮し、あかはとっさのことに堪えきれずにポタリと先端から白濁の液を溢れさせた。
「イったのか」
肌の上に飛んだ精液掬われて指先で弄ばれると、直接触られている訳ではないのにあられもない箇所を大神に許してしまっているようで、あかはそれを振り払うかのように首を振った。
「 す、こし だけだから」
そうは言っても、喋る振動が体に伝わる度にあかの体が小さく震える。
そんな体でも、あかは大神の素肌に触れたくて仕方がなかった。嫌がられるかとぼんやりと思いながら、大神の背広とシャツをやっとの思いで脱がすと、小麦に焼けた肌に手を伸ばした。
肉の感触と鼓動。
牡らしい匂いの立ち上る肌。
あかは誰に教わったのでもないのに、そっと大神の肩に口付けた。
舌を出すと、刺すような塩辛い痛みが舌先に残る。
「 ぉい、し 」
汗なんて、舐めるなんて不衛生だとも思うのに、筋肉に沿って舌を動かすことをやめられなかった。
自分の体を密着させ、大神にしがみついてその味を堪能していると、肩に添えた手に盛り上がる何かが触れて、大神を窺うように見上げた。
「 あぁ、傷痕だ」
その傷痕を舐めようとしてあかは首を傾げた。
何かがこちらを見返している。
「あ 、 」
自分を見上げるあかのこめかみに頬を擦り付け、大神はあかが落としたシャツを羽織り直した。隠されてしまった何かを尋ねるために視線を上げるも、大神は答えそうな雰囲気にない。
「こちらに集中しろ」
「ぅ、 ぁんっ」
揺さぶられてあかが声を上げてしまうと、もう先程までの疑問は霧散してしまい、男の体に擦り寄ることしか頭に残らない。
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