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雪虫 28

 セキが来ていることを言うと、雪虫は起きてご飯を食べると言い出し、二階に持っていたお粥を一階に下げるため盆で運んだ。 「甲斐甲斐しいねぇ」  そう声をかけてくる瀬能は、荷物を持ってすっかり帰る準備を終えていた。 「早いですね」 「通常業務もあるからね。君の高校と大学の、勝手に手続き進めておくからね!」 「お願いしま   、ちょっと待って!」  リビングに入ると、ちょうどいい感じに大神とセキが並んで座って物凄くいい笑顔でタブレットを弄っていた。 「なぁセキ!」 「な、なに?」 「一緒に勉強しないか?」  飛び込んできた人間にいきなり言われて面食らったらしく、セキはキョトンとしている。 「オレ、これから高卒認定と大卒資格取るんだけど、一緒にどう?大神さん!どうかな?」 「それはセキがどうしたいかだろう」  大神の判断を待っていたらしいセキが、大神の言葉を聞いて肩を落としたのが見えた。 「セキ!気にしてただろ?機会があるんだ!やろ!」 「あ、の   でも、俺 大神さんの世話を任されているから……」  両手を振って断ろうとするセキじゃなくて、大神の方に向き直った。  昨日も痛い目にあったし、怖いのは変わらない。  でも、真っ直ぐ見つめる。 「セキがやりたいならやらせるんだろ?」 「そうだ」 「進学できなかったって言ってたから、本当は行きたかったんだろ?」  両手を振っていたセキは、大神に促されて小さく首を縦に振る。 「先生。セキの分も頼みますよ」 「君たち、遠慮ないねぇ」  やれやれと肩を竦める瀬能は、それでも嫌そうな顔はしていない。 「駄目だった?」 「いいことだと思うよ。知識はあって邪魔にもならないし嵩張りもしないから、学んでおくに越したことはないと思っているよ」  ぱちんと、また見たくもないウインクをされた。  とっさに思いついて勢いだけで言い出してみたが、また吊るされなくて済んでよかった! 「それじゃあお暇するよ」  帰ると言う瀬能を見送ってくるからと一緒に外に出ると、少しだけ寒さの和らいだ風が吹いた。  これから暖かくなって、過ごしやすくなってくれるのかと思うと、春が待ち遠しい。 「ぼくのただの勘だけどねぇ、雪虫のフェロモン量が変わってくるかもしれないよ?」 「え  ?」 「しっかり香を焚いて、お茶飲ませて、君にはアルファ用の抑制剤を処方するからね」 「あの!  オレ、雪虫と番に   」  ふっと降りた会話の間に、瀬能のピリッとした雰囲気がわかった。 「  あの弱い体に、これ以上負担を強いると?」  ぐっと言葉を飲み込んだのは、雪虫のか弱さを間近で見てよくわかっているからだ。 「  っ」 「まぁ精神的に落ち着けば体調も落ち着くみたいだし、少しずつフェロモン値と体力が釣り合っていけば、その内ね」  少しずつ、食事の量を増やして体力をつけてやれば、番えることはできるんだろうか?  今朝、偉そうに言っておいて何もわかっていなかったんだと思うと、顔が熱くなってくる。 「番を得るとオメガは精神的に落ち着くけど、雪虫の場合、番るだけのヒートに耐える体力がないからね。君の方でちゃんとコントロールしてあげて」 「  え」  当分トイレに籠らないといけないってことだな。 「ヒートが酷くなるようならその時考えようか」 「わかった  」 「やらしいことはしていいからね」 「どうしろと!」  足を踏み鳴らして文句を言ってやると、今度は本気でキョトンとしたようだ。 「ああ、君、童貞なんだっけ」 「余計なお世話だ!」 「手取り足取り教える?」 「いらねーよ」 「お触りくらいならいいよってことだよ」 「生殺し……」 「君、ちょいちょい使う言葉古いよね」  車に乗り込もうとした瀬能に、一番気になっていたことをそろりと問いかけた。

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