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雪虫 30
ただ、雪虫が気づいた事、オレがここに来た時に周りを振り切って雪虫に会いに行ったことを考えると、
『運命の番』
なんてものが本当にあるのかもしれない。
「 先生が、助手にって言わなきゃ、オレどうなってたんですか?」
「知りたいのか?」
「まぁ。知りたいって言えば知りたいです。あと、親のその後も」
大神はちょっと意外そうな顔をした。
「人様に迷惑かけてないかって心配で」
「 それなりの所で、それなりに慰謝料を稼いでる」
そのそれなり が怖いのだけれど、生きているようならそれでいい。
「会いたいのか?」
「世の中の家族が全員仲良しこよしって訳じゃないんで」
あまりいい思い出のない幼少期を思い出してげんなりしていると、隣で煙草のきつい臭いが香った。
とうとう我慢しきれなくなったんだなー と思って、灰皿を差し出す。
「この臭いって、なんなんですか?」
「お前は質問ばっかりだな」
呆れられたが、気になるものは気になる。
「ある種の薬草だと聞いている」
「ヤベー奴じゃないですよね」
「合法だ」
どうしてもそちら方面と結びつけたくなるのは、大神のせいだ。この稼業の人間が扱う草なんてヤバいイメージしかわかない。
「つかたるに昔から民間療法として存在していたそうだ」
ふぅ と吐いた後、大神は何を思ったのか煙草を持った手をオレの口元に寄せた。
顎をしゃくられ これは、吸ってみろと言っているんだろうか?
吸うのも怖いが、断るのも怖くて……
そろりとそれを咥えた。
「吸え」
「 っ⁉︎ 」
抑揚のないたった一言だったのに、何故だか逆らうことができずにそれを飲んだ。
お茶や香で馴染んだものより格段にキツい香りに、目が回って思わずその場に蹲み込んだ。
肺に入った分を吐き出そうとしても吐き出せず、ひぃと喉から音が出て咽せた。
「 っ、喉、あっ ぃった 」
煙が触れた部分が軋むような、なんとも言えない感触に勝手に涙が溢れる。手で拭っても拭っても治らず、喉も鼻も痛くて堪らない。
「なんだ。初めてだったか」
しゃがむ気配がして、ごつごつとした皮の厚い手が顎を掴んできた。
「 っ、 マジ、コレってなんなの 」
ゴシゴシと乱暴に涙を拭われて、皮膚まで痛くなってくる。
「民間療法的薬草を使った合法な煙草だ」
「煙草の段階でアウトなんですけど 」
機嫌良さげに口角を歪めると、大神は咥えていた煙草をもう一度オレに押し付け、自分用にもう一本咥えた。
漢らしい顔立ちが近づいて、オレの咥えている煙草の火を移すために先端を擦り合わせる。それが気恥ずかしくて、思いの外近い大神の顔から逃げようとするが、顎を掴まれて動けない。
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