56 / 665

雪虫 35

 細くて、柔らかい。  ふわふわとした抱き心地の良さに、腕の中の雪虫を引き寄せると、さすがにこの距離だからか甘い匂いがして、マシュマロのような感触がする。  鼻先をくすぐる金色の髪から匂うこれは……  Ωの匂いだ、  αを惹きつける、牝の、匂い。 「   雪虫」  声での返事はなかったけれど、代わりに少しだけ首が動いた。その拍子に空気が動いて、纏う匂いが鼻に届く。  甘い……  でも発情期じゃない、欲情の匂いだ、 「雪虫  」  微かに見える唇がきゅっと引き結ばれて、上目遣いに見詰められた。 「  しずる」  触れるようなキスはやっぱり雪虫からで、ドキドキして手を出しあぐねているオレとしては、その勢いが羨ましくもあり、悔しくもあり…… 「あー……えっと、触ってもいい?」  目の前で開いた手をどうしようもできず、このまま「ダメ」と言われてしまったら?  息を止めて答えを待っていると、雪虫がそっと胸に引っ付いてきた。  柔らかい感触が胸元でして、頬が擦り寄せられたんだとわかった。 「あ、の   」  そろりと手を伸ばして背中を抱くと、小さな鼓動が指先に触れる。  小さくてどことなく頼りない……  少し力を込めると柔らかい感触がして、 「やわ  」  いつかも思ったが、気持ちのいい柔らかさについ手が動いてしまう。 「なんでこんな柔らかいの?」 「しずるは固い?」  固い  と、言われてしまうと卑猥なことしか浮かばないのは、オレの頭が色っぽいことでいっぱいなせいかもしれない。  雪虫の冷たい指先がそろそろと胸に触れて、遠慮がちに力を込めてくる。 「どうかな?」 「ん 固い」  服の上から揉むのに焦れて、裾から中に手を入れるとこちらが驚くくらい雪虫の体が跳ね、真っ赤になってこちらを睨んできた。 「駄目  だった?」  さらさらとした柔らかい肌の下に骨を感じる。  絹の布地を触った感触に似ている皮膚を、爪を立てないように掌でそっと撫でてみた。 「  ダメじゃ、ない  けど」  いつも以上に赤い顔でむっと膨れるのは、ただ拗ねているだけじゃないことは分かる。けれど、正直……ここから先のことに関しては、雪虫より多少マシ程度の知識しかなくて……  むしろ思い切りがいい分、雪虫の方が上かもしれない。 「しずる?」  ちゅ と額にキスすると、ほっとした表情になる。  その表情が愛らしくて、頬と耳にもちゅっと唇を近づけた。 「ん    触ったとこ、きもちぃ  」  うっとりとした声で言われると胸の内側がくすぐったくなって、自然と顔がにやけてしまう。  甘い匂いのする細い肩、華奢な腰、そっと腹を撫でて胸に手を持っていくと、びくんとした反応の後に手を押さえられてしまった。  もう少し、上を触りたかったけれど…… 「  ソコ、くすぐったいから」 「くすぐったい?  自分で触った?」 「ぁ  」  ちがう  と言いつつも、顔は真っ赤で……しばらく言い訳を考えていたようだったが、観念して小さく頷いた。 「オレが触ってもくすぐったいかな?」 「    わかんない」  促すと、オレを押さえていた手がそろりと退いて……これは触ってもいいと言うことか?

ともだちにシェアしよう!