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雪虫 35
細くて、柔らかい。
ふわふわとした抱き心地の良さに、腕の中の雪虫を引き寄せると、さすがにこの距離だからか甘い匂いがして、マシュマロのような感触がする。
鼻先をくすぐる金色の髪から匂うこれは……
Ωの匂いだ、
αを惹きつける、牝の、匂い。
「 雪虫」
声での返事はなかったけれど、代わりに少しだけ首が動いた。その拍子に空気が動いて、纏う匂いが鼻に届く。
甘い……
でも発情期じゃない、欲情の匂いだ、
「雪虫 」
微かに見える唇がきゅっと引き結ばれて、上目遣いに見詰められた。
「 しずる」
触れるようなキスはやっぱり雪虫からで、ドキドキして手を出しあぐねているオレとしては、その勢いが羨ましくもあり、悔しくもあり……
「あー……えっと、触ってもいい?」
目の前で開いた手をどうしようもできず、このまま「ダメ」と言われてしまったら?
息を止めて答えを待っていると、雪虫がそっと胸に引っ付いてきた。
柔らかい感触が胸元でして、頬が擦り寄せられたんだとわかった。
「あ、の 」
そろりと手を伸ばして背中を抱くと、小さな鼓動が指先に触れる。
小さくてどことなく頼りない……
少し力を込めると柔らかい感触がして、
「やわ 」
いつかも思ったが、気持ちのいい柔らかさについ手が動いてしまう。
「なんでこんな柔らかいの?」
「しずるは固い?」
固い と、言われてしまうと卑猥なことしか浮かばないのは、オレの頭が色っぽいことでいっぱいなせいかもしれない。
雪虫の冷たい指先がそろそろと胸に触れて、遠慮がちに力を込めてくる。
「どうかな?」
「ん 固い」
服の上から揉むのに焦れて、裾から中に手を入れるとこちらが驚くくらい雪虫の体が跳ね、真っ赤になってこちらを睨んできた。
「駄目 だった?」
さらさらとした柔らかい肌の下に骨を感じる。
絹の布地を触った感触に似ている皮膚を、爪を立てないように掌でそっと撫でてみた。
「 ダメじゃ、ない けど」
いつも以上に赤い顔でむっと膨れるのは、ただ拗ねているだけじゃないことは分かる。けれど、正直……ここから先のことに関しては、雪虫より多少マシ程度の知識しかなくて……
むしろ思い切りがいい分、雪虫の方が上かもしれない。
「しずる?」
ちゅ と額にキスすると、ほっとした表情になる。
その表情が愛らしくて、頬と耳にもちゅっと唇を近づけた。
「ん 触ったとこ、きもちぃ 」
うっとりとした声で言われると胸の内側がくすぐったくなって、自然と顔がにやけてしまう。
甘い匂いのする細い肩、華奢な腰、そっと腹を撫でて胸に手を持っていくと、びくんとした反応の後に手を押さえられてしまった。
もう少し、上を触りたかったけれど……
「 ソコ、くすぐったいから」
「くすぐったい? 自分で触った?」
「ぁ 」
ちがう と言いつつも、顔は真っ赤で……しばらく言い訳を考えていたようだったが、観念して小さく頷いた。
「オレが触ってもくすぐったいかな?」
「 わかんない」
促すと、オレを押さえていた手がそろりと退いて……これは触ってもいいと言うことか?
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