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雪虫 46
「あー。三半規管がイカれたんだよ」
「この建物、気持ち悪い 」
後ろを黙ってついて来ていた直江が駆け寄り、肩を貸してくれるが、これ以上この建物を歩きたくない気持ちが強い。
「ココ入り組んでて、廊下も微妙に傾斜してるから狂うんだよね」
そう言う瀬能は平気そうだから馴れが関係するのかもしれなかった。
「もしもの時に備えて、ちょっと入り組んだ造りになってるんだよ」
もしも?と返そうとするができずに固く目を閉じた。
「オメガ目的で侵入されることも想定してあるからね。さ、もう少しなんだけど動けそうかな?」
「歩くのと、引きずられるのではどれがいいか選べ」
選択肢があるようでない大神の言葉は、まだオレが逆らったことで不機嫌なのを教えてくれて。
直江にしがみついてとりあえず一歩を踏み出した。
直江に引きずられるようにして連れてこられたのは、難しそうな機械の並んだ部屋で、オレだけは更にその奥の小部屋に放り込まれた。
人が気持ち悪い!具合が悪い!と言っているのも華麗に無視して、あの大人達はガラスの向こうで何やら楽しそうだ。
目の前に並べられた小瓶と、ガラスの向こうの大神達を見やる。
「じゃあ、左端からねー」
マイクを通して聞こえる指示に従って、向かって左手側の小瓶を持ち上げる。
「 えと、ベータ」
「じゃあその隣」
「臭わない」
「次ー」
「あ。オメガだ」
番号のついた小瓶の中には一片の綿が入れられていて、指示された順に臭いを嗅いでいくと言うものだ。
なんだか犬になったような気がして、落ち着かない。
「ベータ、アルファ、臭わない、 アルファ、ベータ 」
十数個並べられた小瓶を全て嗅ぎ終えてガラス窓の方を見ると、大神の眉間の皺が深い。何かまずいことをしたんじゃなかろうかと思うも、こちらは指示されたことをしただけで特別なことはしていないから、オレが悪いわけじゃない と、思いたい。
「しずるくん、すごいねー。じゃあ次行くよ」
ドアを開けて入ってきた瀬能が、盆に載せた幾つかの小瓶をオレの前に置いてから何かを構えた。
すぐに振り下ろせる位置にある手の中を見ると、昨日直江が使ったペン型の注射器が握り込まれている。
「え、ちょ 」
「念のためだから気にしないで」
「いやいや、オレ、飲んでるし貼ってるし、追加で腕にもつけてるんだけど!」
「大丈夫!」
「何がっ⁉︎ヤブじゃねぇのか!」
瀬能は引く気はないようだ。
ここまでして嗅がせると言うことは、この瓶の中身も心当たりが出てくると言うもので。
「 人体実験だろ……」
呻いて、覚悟を決めて瓶の蓋を開けた。
「 ───っくっさ!」
つん と鼻に来る異臭を吸い込んで、悲鳴を上げてしまった。
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