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雪虫 51
「セキも?」
「ああ。母親に借金の返済代わりにな」
「 それは、セキは知ってる?」
「お喋りな奴がいるからな」
運転席で直江がごほんとわざとらしく咳を出す。
ここから漏れてしまったのか……
親が、子供の自分で金を作っているって言うのは 地味にじわじわと心の柔らかい部分に突き刺さっていくもので。
その辛さは、少しは分かる。
「 そか。オレのコレが役に立つんだ 」
ちょっとヒーローになれるかもとか胸が高鳴ったけれど、でもそれは雪虫に会えない前提で。
「……でも雪虫に、会いたいんだ」
「わかっている」
わかっていてそれでもこの人はさせないと言うのか。
捜索にはオレの鼻が必要で……雪虫に会うにはオレの鼻は不要で……
「 」
いや、無理だろ。
そもそも、人身売買とか物騒な話が出た段階で、オレの手に負えるような話じゃない。
そんな世界の住人だからか、しれっと大神は話すが、オレにしてみたら全く関係のない世界の話だ。
「無理なら無理で構わない。自分の身の振り方は自分で決めさせようと先生とは話がついている」
「え 」
「もっとも、先生には抜け駆けされたがな」
ぎゅっと寄った眉間の皺。
大神が不機嫌だったのは、オレが捜索ではなく研究の手伝いを選んだからだったのか?
オレは瓶の匂いを全て嗅ぎ分けることができたけれど、普通はそうじゃないってなんとなく理解はできている。捜索の方を選べば、どれだけ有利になるかは考えなくても分かる。
「お前の能力ならどちらでも成果を出すだろう、だが同時に危険も伴う。 まぁ、どちらを選ぼうと、生活は面倒見てやる」
「 どうして?」
役に立つならともかく、大神の手伝いを蹴ったオレに、大神から見て価値なんてないはずだ。
「 オメガ、が」
大神自身が言葉を見つけ損ねている様子だった。
「 雪虫が、望むように生かせてやりたい、から」
ふぃと視線を外した大神の口は閉じられていて、きっとそれ以上言う気はないんだろう。
恐ろしいと思う精悍な顔つきも、その視線から外れてしまえば盗み見る分には怖くない。
「 ………大神さん、帰りにちょっとだけ雪虫の家に寄らせて。雪虫には会わないから。ドアの外から、話すだけ」
雪虫の残り香を詰めた瓶をしっかりと手に握り込み、情けなく歯が鳴らないように口をひき結んだ。
しっかりと見つめ返すと、大神は煙草を捨てる動作に紛れさせて小さく口の端を上げていた。
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