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雪虫 52

 たった一日だけなのに、着いた家が懐かしくて……  どこにでもあるような、普通の一軒家を食い入るようにして見詰めてしまって、大神に促されるまで入ることができなかった。 「おかえりなさい!」  いい笑顔で玄関に駆け寄ってくるセキはオレを見て頷いた。 「雪虫は部屋に入ってもらってるよ」 「ん   ありがと」 「何事もなかったようだな」  家の中を見回し、大神はセキに確認を取る。  どこぞの任侠映画じゃあるまいし、ちょっと離れただけで何かあると思っているのか?  過保護すぎると言うと、睨まれるだろうから黙ってはいるが……  すんすんと鼻を鳴らして、大神がセキの頸に顔を寄せた。  覆いかぶさるようなその行動にびっくりしたが、二人にとっては日常なのか気にする素振りもない。 「他の臭いが移っている。人を置きすぎたか」 「でも、今日は大神さんも直江さんもいなかったから、しょうがないです」 「そうだな」  そう言ってセキの頬を撫で、髪を弄り、ゴシゴシと手でセキを擦る。  どこからどう見てもαのマーキングだ。 「そう言うのは他所でやってくれよ」 「何をだ」 「無意識なの⁉︎」  直江にも援護してもらおうと振り向くも、絶妙なタイミングで視線を逸らされて、これは流さなければいけないらしい。   「   雪虫の具合どうかな?」 「熱は下がって来てるけど、ずっと   」  セキはこの先を言おうかどうしようかと言う素振りを見せたが、じっと見つめると観念して肩を落とした。 「ずっと泣き通してる」 「 っ! 鍵はちゃんとかけてあるんだよな?」  頷くセキを目の端に入れながら階段を駆け上がり、二階の真ん中の部屋へ急いだ。  わかっているはずなのに、ドアノブを回して確認してしまうのは、もしかしたらと言う悪あがきで。  ガチン……  錠の降りている手応えに、わかっていたはずなのにガッカリして膝をついた。  扉に耳をつけると、小さなしゃくり上げる声が聞こえてくる。 「   雪虫」  小さく呼んで、息を詰めた。  幾ら鍵を掛けているとは言っても、ドアの下には隙間があって、そこから微かに雪虫の匂いが香る。  この家には香が焚いてあって、他の匂いは全然しないのに、雪虫の物だけははっきりと感じとることができた。 「  し ずる?」  とん とと  と軽い足音がこちらに駆け寄り、オレと同じようにドアノブに手を掛けたようだった。もちろん開くことはなくて、雪虫の悲鳴のような泣き声が大きくなった。 「なんでぇ!   しずる、そこに   っしずる」 「雪虫、聞こえてるから、  雪虫!」  ぽこんぽこんと扉が跳ねる。  非力な雪虫が扉を叩いているのだと分かるが、そんな力で破れるような扉じゃない。

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