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雪虫 59

 制服のバリエーションがあるから学校のものと言うわけではなさそうだ。ただ私服だとしても違和感はなく似合っている。 「可愛くない?」  もじもじっと小首を傾げる姿にも、大神の眉間の皺は取れず、 「   血染め刀の名が泣くぞ」  なんとかそう呻き声を出した。 「こんなトコで言うことないのにぃ。わんこくんも羞恥プレイが好きだねー」  それのどこに照れる要素があるのかわからなかったが、水谷は恥じらって「んもー」ともじもじしている。 「好きじゃあないな」 「つれなーい!」  きゃあきゃあと笑い声を上げて、水谷は大神の腕にぶら下がったりして遊んでいて、二人は昔からの知り合いなんだなと言うことが見て取れる。 「ところで、授業の方はどうだ」 「  まず筋肉が足りない。スタミナも足りない。スピードも足りない」  頑張ってはいるつもりだったが、それでも水谷から見れば全然なんだろう。 「ついでに頭も足りない」  そこまで貶されたのなら、もう泣いてもいい気がしてくる。 「バカ正直過ぎる」  はー……と大神が溜め息を吐くが、吐きたいのはオレの方だ。 「でも、成長としては悪くないよ。僕としてはちょっと楽しみだ」  ちらりと大きな目がこちらを向いてニッコリ笑う。 「そうか。お前が言うならそうなんだろう」  貶されて上げられて……この人達は人をなんだと思ってるんだ!  溜め息を吐いてくるくると小型犬よろしく、大神の周りを走り回ったり飛びついたりする姿を見ると、普通の知人と言うよりも……もっと親しいようにも見える。 「お茶を煎れましたので、休憩されてはいかがですか?」  直江の言葉に促され、大神が頷いて玄関の方に歩き出した。 「僕ジュースがいいな!」 「ご用意します」  そんなやり取りを聞きながら……二階を見上げると、カーテンが微かに揺れている。  明るいこちらからじゃ白い布の向こうは見えなくて、でも雪虫が見てくれていると確信して手を振った。  本当なら、その屋根をよじ登って窓に駆け寄ってしまいたいけれど……      急いで着替えたらしいセキが玄関に走ってやってきた。 「いらっしゃい!」  ここの所……と言っても、ニ、三日の話だけれど、大神が多忙とかでこちらに来ることがなかった。オレに代わって雪虫の世話をしてくれているセキは、当然この家から出ることはなくて、大神に会えないとボヤいていたから、会えると聞いてはしゃいでいた。  だから今日来ると聞いて嬉しいんだろうなぁと言うのは思っていたし、めちゃくちゃいい笑顔で出迎えるんだろうなって言うのも予想できた。  でも大神と水谷の距離がこんなに近いのは想定外で……  案の定、セキは大神の腕に引っ付いている水谷を見て、オロオロとギクシャクした動きで挙動不審だ。 「こんにちはー!いつも挨拶せずにお庭で失礼してごめんねぇ?」  ぴょこんと大神の腕から飛び跳ねて、セキに「はじめまして」と挨拶する。 「中こんななんだねぇ?」 「家なんかどこも似たり寄ったりだろう」 「そんなことないよぉ?」  親戚のうちに来た子供かな?と言う感じで、水谷はきょときょとと辺りを見渡して、直江が勧めるリビングのソファーに腰を下ろした。

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