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雪虫 60

「ひっろーい!いいなぁ僕ワンルームだよー」 「お前のサイズならそれで十分だろう?」 「じゃあわんこくんのビッグサイズだと、でっかい一軒家じゃないと収まんないってことなの?」 「何の話になっているんだ」 「ナニってぇ」  パタパタと足を蹴り上げるから、スカートが舞ってちらちらと太腿が見える。  オレは目を逸らしてるけど、向いに座っている大神は全然気にしてないようで…… 「ナニ、の お話ぃ」  よく似合う悪戯っ子っぽいニッカリとした笑いを浮かべて、水谷はスカートの裾を摘み上げる。 「今更照れるぅ?僕と君のナカでしょ?」  ツンツンと頬を突かれても大神が怒らないのは……それだけ水谷の奔放な行いを許しているからで。  微妙な表情で二人を見ていたセキがぐっと言葉を飲み込んだのが分かった。  雪虫の件がなければ、傍から離さない程可愛がっている。  じゃあ、大神と水谷の関係は?  オレがやきもきすることではないのは分かってはいるが、傍で見ている身としてはハラハラして堪らない。 「仲も何もないだろう」 「ヒドイ!遊びだったんだ!」 「遊びも何もないだろうが」  とうとう大神は面倒そうにそっぽを向いてしまった。 「からかいすぎたー?」  直江の出したオレンジジュースを美味そうに飲んで、罪悪感の欠片もない風に笑顔を作る。 「もういい。ところで、広い家がいるなら用立ててやるが?」 「えぇ?要らないよー。ナニ要求されるか分かったもんじゃないし」  カコン とグラスに残った氷を一つ口に含み、小さく肩を竦めてみせた。 「君には貸しは作っても借りは作らないようにしないとね」 「そうか。気が向いたらいつでも言うといい、歓迎する」 「じゃあまた温泉行こうよー!」  隣に立ったままのセキの顔を盗み見ると、つーんと唇が突き出ていて、拗ねた時の動きが雪虫と同じ癖だと気がついた。  いや、同じと言うか、雪虫がセキに影響を受けてああやって拗ねて見せるんだとなんとなく納得した。 「  オレ達もなんか飲もう、向こう行こ」  久しぶりに会ったらしい二人には積もる話もあるだろうし、傍で拗ねながら二人を見ているセキは気の毒だし、ちょっと離してやった方がいい気がする。 「    うん」 「今日の晩飯のこともあるし」  「な?」と促すと肩を落として台所の方へとトボトボと歩いて行く、直江さんに身振りだけで向こうに行くと告げてすぐに後を追った。  台所の椅子にポツンと座って項垂れるセキに何を飲むか尋ねると、いつものお茶をお願いされた。 「よくあの茶が飲めるなぁ」 「飲んでないの?」 「飲んでるよ。進んで飲みたくないだけで」  茶筒をポンポンと叩く。  これがフェロモンや匂いを抑えてくれると言うのは重々承知だが、クソマズいのはどうしようもない。 「これでもだいぶ美味しくなったんだよ」 「うぇ……」 「まぁ、飲むのと飲まないのとじゃあやっぱりいろいろ違うから」  確かに、匂いが全然違う。  この薬草?ハーブ?合法の 何か?の影響がある間は雪虫以外の匂いらしい匂いは感じ難い。  よっぽど近いか、外に向けて攻撃的な臭いでない限り、気にならないほどだ。 「これなんなんだろうな」 「何かの花とか、聞いた気がするけど……」  詳しくは知らないと首を振る。

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