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雪虫 63

 保冷剤がありがたいと思えるのは、大神にぶっ飛ばされたから。  辛うじて腕で止めたけれど、重い蹴りが止まってくれるわけもなく、しっかり入った蹴りに体は浮いて生垣に突っ込んでしまった。 「しずる?しずる?」 「うん?」 「ケガしてない?」  板を隔てた向こうで、雪虫は泣きそうだ。  そりゃそうか……派手に吹っ飛んだところを見られたんだから。 「怪我は  大丈夫。……雪虫は?怪我の具合どうだ?」 「ケガ?」 「この前  オレがさせたって。謝ってなかったから……ごめん」  ことん とドアの向こうで音がする。 「しずるがくれるものなら、なんでも嬉しい」 「怪我は 駄目だろ」 「それも、嬉しい」  見えないはずなのに、なんとなく笑ってるんだろうなってイメージができて、そっか とだけ返してこの話題は切り上げた。 「大神ひどいからカタキとるよ、びゅんびゅんって!」 「びゅんびゅん?」  雪虫に仇を取ってもらう なんてことになったら、ホント情けなさで死ぬかもしれない。 「しずるが守ってくれるから、だから守るよ」  そうだな、雪虫がいてくれるなら、すべてのことが頑張れそうな気がしてくる。 「ありがとうな」  雪虫の匂いが鼻を擽って…… 「  会いたいなぁ」 「うん  」  ドアに取り付けられている鍵を見て、針金でなんとかなるんじゃなかろうかと思い、鍵穴を指先で探る。  入り口を見ただけで合鍵を作る話を聞いたことがあったけれど、そんな特技でもあれば雪虫に会えたのかと馬鹿馬鹿しいことまで思ってしまって。  でもこんな思考に陥ってる段階で、きっと自分を抑え切れてないんだろう。  傷つけるのだけは、勘弁だ。 「   ?」  とんとんとん と軽い足取りなのはセキだ。  ひょこ と階段からご機嫌そうな顔を出して、保冷剤を替えるか聞いてきた。 「いや、まだ大丈夫」    大神の蹴りを咄嗟に受けてしまった左腕に当てた大きめの保冷剤を、ぐにぐにと揉んで中身がまだ凍っているのを確認する。 「じゃあ夕飯できたら呼ぶね」 「あ、オレも手伝うよ」  立ち上がろうとしたオレを身振りで再び座るように促し、 「少しでも傍にいてあげて」  そう言って笑った。  お言葉に甘えて扉の前に座り直すと、ことんと音がした。 「まだいてもいいの?」 「うん」  空気が動いたから、雪虫の匂いが濃くなって。 「ここで布団敷いて寝ようかな」 「そしたら、ずっとこうやってられる?」 「雪虫はベッドで寝なきゃだろ」  ベッドは扉から離れていて、そこに寝てしまうと会話もままならないだろう。落ち込んだ気配に、調子を合わせるべきだったかと肩を落とした。

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