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雪虫 64

 落ち込ませたいわけじゃなくて、雪虫の体が心配で出た言葉だったのだけれど…… 「   」 「  ねぇ 絵本、聞きたいな」 「わかった」  いつもの語り出し、いつも通りの……  そんなことしかできない。  オレは、他にしてやれることがないんだろうか?    瀬能から性周期同調フェロモンの実験の話を聞いて、セキは落ち着かずにソワソワとしていたが。雪虫は、セキから聞いた話によると、黙って頷いていたそうだ。 「本当ならもうちょっと人数が欲しいとこだったんだけど、なかなかね、参加してくれる人って少ないから」 「そうなんだ」 「色々な事柄を調べようとしたらちょっと非人道的な事もあったりするからね。君、ちょっと去勢させてよって言ってさせてはくれないでしょ?」  股に視線をやる瀬能から逃げるように、思わず股間を手で覆った。 「なんでそんな実験がいるんだよ!」 「去勢してもアルファはアルファなのか、アルファフェロモンが多く出ている局部を切り取ると、女性化するのか?オメガ化するのか?それともベータ化するのか?それとも変わらないか?  面白くない⁉︎」 「全然」 「ね?こんな対応されて協力者が少ないんだよ。少しずつ進めるしかないね」  はぁと溜め息を吐いて腕時計を眺めては、約束の時間までまだある と瀬能が呻く。 「随分楽しみにしてますね」 「そりゃ勿論、任意発情型なんて都市伝説級だからね!」  キラキラと目を輝かせる瀬能は子供のようで、口出ししにくい雰囲気だ。 「今は圧倒的に定期発情型が多いのは、どうしてだと思う?」 「えっ   え?」 「色々あるけど、生涯出産数が全然違うって言うのが大きいだろうね」  はぁ?と首を傾げる。  きっとこれを、大神が客を連れてくるまで続けるんだろう。  話し始めたら長いのを、うっかり忘れていた。セキのようにタイミングを見計らって席を立つなんて技術はオレにはなくて、仕方なくウンウンと頷いた。 「ほら、好きな人の子供だけ欲しいだろ?でもいつヒートがくるかわからないと、不本意なことも多いから」 「あ、あー そう」 「だから定期型が多いんじゃないかな?特にオメガの場合。オメガって不思議で、本来自然排卵のはずなのに性交排卵をしたりもするんだよね。急なヒートが起こるのは複数のアルファに争わせてより強い個体を得るためか、性交排卵を促すためか……実はよくわかってなくて」 「すみません、オレもわかんないです」  話の半分もよくわからない とは言い出しにくい。 「第二性徴期にオメガの初ヒートが多いのは、単純に接する人が増えてアルファフェロモンに晒されるからって話もある。街中ですれ違った中に運命の番 もしくは相性のいいアルファがいて、そのフェロモンに当てられて突然発情、結果傍のアルファがラットに陥り襲われるんじゃないか とか言う話もあったね。人口密度が低かったり、人と接する機会の少ないオメガの初ヒートが遅いってレポートもあるし、どうかな?」 「さぁ どうなんでしょう」  右から左に筒抜けているとは言えず、ヘラヘラとした笑いで誤魔化す。 「オメガの初ヒートはアルファフェロモンに晒される量が鍵なのかなぁ、それは蓄積なのかな?」  相槌を打とうと思うのだけれど、ひくりと口の端が動いただけで終わった。 「あ、当分はお香もお茶もなしね。君は……」

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