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花はいっぱい 7
結局、門限があるからと六華が帰るまで眠り込んでいた喜蝶は、カレーが食べたいと言い出して不機嫌そうだ。
「 レトルトでもいい?」
オレのベッドの上でまだ眠そうにしている喜蝶は首を振り、「辛いから嫌だ」と呻いた。
手に持たれているカフェオレもバニラアイス風味とか書かれた甘〜い物で、喜蝶の好みは全然辛くない甘いカレー。
市販の甘口でも辛いと文句を言うほどだった。
「家のご飯は?」
「適当に食べといてって。 なぁ、俺辛いの食べれない」
つーんと拗ねて見せられても……
「 わ、かった。えっと、買い物行ってくる」
六華がコンビニに行ってくれたけど、やっぱり行くことになるみたい。
逆らっても文句言ってもムダだし、肩を落として上着を探した。昼間は暖かいけれど、夜になると肌寒く感じる時があるから必要だ。
「あれ パーカー知らない?」
ベッドの傍に置いてあったはずなのに、記憶にある場所にない。
素知らぬ顔でカフェオレを飲む喜蝶に振り返ると、その尻の下に水色の服が見えた。
「ちょ 踏んでる!って言うか敷いてる!なんで⁉︎」
さすがにムッと来て乱暴に引っ張ると、人の服を下敷きにしているのに面倒そうに体を動かすが、視線はこちらを見ない。
「知らないよ、そこにあっただけだって」
「もーう!」
シワが目立つような素材じゃないけど、ぺったりとなった生地を見るといつから下敷きにされていたのか……
さすがに悲しくなってうなだれてしまう。
「ちょっと自由すぎない?」
「んー? お腹空いた」
ポチポチと携帯電話でゲームをする喜蝶はやっぱりこちらを見てなくて、何を言ってもムダそうだ。
オレのことを……空気かなんかだと思ってるのかな?
腹が立って睨みつけてやるも、綺麗な二重の目が瞬いてちらりとこちらを見るともうどうでも良くなってくる。
「……行ってくる」
走ることは無理だけど、ゆっくり歩いてなら大丈夫。
ひょこひょこと変な歩き方だけど、まぁしょうがない。
じゃが芋が入っていると嫌がるからじゃが芋は入れない。代わりに甘味の出るトマト缶を買って、ルーを買って……
ビーフカレーよりチキンカレーの方が好きだから、鳥モモ肉にした。
少しでも野菜を と思ってセロリを持ちながら、ふと我に返る。
「なんでこんなことしてるんだろ 」
発情期が来るからと休んでいたはずだった。現に心臓はドキドキしていて、動いただけではない熱っぽい息がふっと漏れる。
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