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花はいっぱい 8
いつもより体温が高い。
予定は明日なのに、あんな風に喜蝶がちょっかいを出すから、ちょっと早くなったのかもしれなかった。
早く家に帰ろうと急いで会計をして店を出る間も、鼻先に色々な匂いが漂って来てクラクラする。
「 あ。いい匂い 」
これは、残り香?
急いでいたはずの足が止まって、つい辺りを見回した。
ちょっとビターな感じの、
「 」
ニ、三歩そちらに釣られそうになって、慌てて踏み止まった。
「わ 何やってんだろ」
これがΩの本能ってやつなのかな?
好みの匂いを嗅ぎ分けるとか言う……
空気の中に溶け込んだ先程の匂いをつい探してしまったけれど、人の動きにかき混ぜられて見つけることが出来なかった。
それが少し残念で……
後ろ髪を引かれて足が動かないでいると、きゅうっとお腹の奥が痛むような感覚がして、「?」となってお腹を押さえた。
「??」
冷えた?とも思うも、そんな痛み方じゃない気がする。
よくわからないままパーカーをちょっと引っ張って覗き込むと、下敷きにされていたからかふわりと喜蝶の匂いがして……
そうだった!
家に腹を空かせた喜蝶がいるんだった!
それを思い出して家へと急いだ。
喜蝶はオレのこと空気と思っているのかと考えていたけれど、違う!こいつは家政婦だと思ってるんだ。
むぅーと膨れながら向かいに座る喜蝶におかわりを出す。
「ちょっと辛くない?」
「十分甘いよ!」
文句を言う割に二杯目もあっと言う間に平らげて……
ちょっと満足そうにされると、嬉しい。
「なー?この間見ようって言ってたDVD観たい」
「うん?でもあれテレビドラマだから長いよ?途中で止めるの嫌だろ?」
「今見たい」
「明日も学校なんだし、週末にしようよ!そしたらオレのヒートも終わってるだろうし」
チラリと横目で見られて、拗ねた顔をされて……
この顔は甘える時に、オレだけにしか向けないって分かってるから余計にどきっとする。
自分の顔の良さを分かってる奴ってムカつく!
「じゃあ貸してあげるから家で観なよ、そしたら寝落ちても大丈夫だろ?」
「一人で観るのかよ」
袖をくぃっと引っ張られて、あざといと分かる顔をされて……
「〜〜〜っ ってダメ!」
さっき頓服の抑制剤を飲んだけれど、いつもよりドキドキしてるから、もうこれは完全に発情期に入っちゃってる。
「なんでなんて聞かないでよ」
「なんで?」
聞くなと言うのをあえて聞くのも喜蝶らしい。
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