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花はいっぱい 9

 イラッとしたけれど、発情期のピーク時はムラムラするからだよ!とは恥ずかしくて言えなくて、仕方なく「怒られるから」と返した。 「ヒート中はお父さん達がいい顔しないの知ってるだろ?」 「…………」  幼馴染みだし、大人に対してはきちんとしているせいか親からの覚えはいい喜蝶だけど、オレの発情期が始まってからやっぱり……そう言う時は警戒するみたいで。  なにかあってからじゃ遅い と、発情期の間に喜蝶が来るといい顔をしない。 「……じゃあ、おじさん達が寝たら窓から来るよ」 「前にバレただろ!」 「俺のアイスあげるからさぁ」  精一杯の喜蝶の譲歩なんだろうけど さ。  子供のお使いじゃないんだから…… 「ダメなんかよ」  これだけ喜蝶が食い下がるのは、今夜は喜蝶の両親がいないからだろう。  喜蝶の両親は運命の番 らしい。  それはそれは仲睦まじくって、誰も二人の間に立ち入れない。けれどそれは自分達の子供の喜蝶に対してもらしく、おじさん達は喜蝶より自分達の時間を優先する。  愛し合った二人から生まれたはずなのに、愛情不足な喜蝶は寂しがり屋だ。  何かと理由をつけて両親二人で出かけてしまう家で、たった独り。  だからかな?昔からちょっと困らせるようなことを言って、人を試すような時があるのは…… 「ごめん  」 「    俺のこと、嫌いになった?」 「それはない!嫌いじゃない!全然っ!」  食い気味に返すと、ちょっと逸らされていた視線がオレを見る。  瞳に俺が映ってるのが分かって安心していたら、ぎゅうっと力強く抱き締められてしまった。   「よかったー!」  喜蝶の匂いを嗅ぐと余計にドキドキするから離れたかったけど、その腕に抱き締められる心地よさは魅力的過ぎて、オレも背中に手を伸ばしてしがみついた。  ちょうど胸の辺りに耳が当たるせいか、穏やかな心臓の音が聞こえてきて、つむじに頬擦りをされて胸がきゅうと苦しくなる。 「んー……?なんか、匂いが違う?」 「え?  それは ヒートだからじゃなくて?」  すんすんと耳の辺りを嗅がれると、恥ずかしさとくすぐったさが堪んなくて、慌てて喜蝶を突っぱねた。 「うーん、シンプル?になった?」 「何それ?カレー食べて嗅覚がおかしくなってるだけじゃない?」  眇めた目で見てきて、納得してないような表情だ。 「そうかなぁ」 「きっとそうだって!   そろそろ、お母さんが帰ってくるからさ、家に帰ろうか」 「    」 「クッキーあげるから」  買い置きされているチョコチップも入った甘いクッキー。  小さな子供にするように、それを手渡して「ね?」と念押ししてみる。

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