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花はいっぱい 11
「運命の相手を見つけた!」
と、いつもの調子で喜蝶がΩの女の子を連れてきたのはテストも後一日と言った日だった。
いつも通りの、ウキウキとした足取りと、傍に立つ華奢な女の子。何人目の運命の相手なんだろうと数えつつも、オレはいつも通りおめでとうと言った。
もしかしたら、今度こそ喜蝶の本当の運命の相手かもしれないし、そうなったら喜蝶はオレのことなんかぽーんと頭から飛ばして、彼女との幸せな生活を満喫するだろう。
オレはそれを、後ろで指を咥えて見ているしかできない。
「かぁっわいいだろー?女の子のオメガなんだよ」
医学の進歩で多少カバーされたとは言え、Ωの数はαの半数で、その少ない半数の内で女の子の数は三割ほどだった。
バース性の7割神話の話を肯定するような数の少なさで、Ωの女性は極めて珍しいとされている。
喜蝶の歴代の恋人達の中でもとびきり美人だし、Ωらしい女の子だ。
「そうだね」
お決まりの返事を返して、お決まりの箇所の顔の筋肉を動かして笑って見せた。
視線を下げると、仲睦まじく組まれた手が見えて。
「この子は百合みたいな華やかな匂いがしてさぁ、一目惚れしちゃった!」
「もー!恥ずかしいよぉ」
もじもじと恥じらう彼女は確かに可愛らしい。
「じゃあ薫は僕が貰うね!一緒に帰ろ!」
傍で聞いていた六華が無理矢理オレと喜蝶の間に割って入り、顔が引きつってるよ!と、腕を引っ張りながらこっそりと教えてくれた。
最近動画サイトとかで、笑顔の自然な作り方について観たはずなのに……うまく行ってなかったみたい。
「あ、おい!待てよ!今日は本屋一緒にって 」
六華の引っ張ってくれる力が強いせいか、喜蝶の呼びかける声を聞かなくて済んだのが、膝が崩れてしまいそうになるくらいホッとして。
手を引かれるままに歩いて、公園の隅まで来た時が限界だった。
「 ……ご めぇ ん゛っ」
涙で滲んだ視界がさっと遮られて、細いけれど力強い腕に抱き締められた。
「いいよ!僕がこうやってるから好きなだけ泣いて!」
その言葉にそのまま甘えるのは、良くないとは思ったけれど、今はそれを受け入れることができなくて……
喜蝶は満面の笑みだった。
両親を見て育ったせいか、自分も絶対に運命の番を見つけるのだと言っていた喜蝶。
こうやっていつか運命の番を見つけたら?
そしたらオレは?
幼馴染みの世話係から、いったい何になるのかな?
二人の子供ですら目に入らないくらい、お互いに夢中になる運命に出会ってしまったら、オレはきっと空気以下の存在になる!
グズグズと泣き続けるオレの背中を辛抱強く撫でて、六華は大丈夫大丈夫と繰り返してくれる。
「いっぱい泣いていいよ」
「も やだよ っ 」
お隣同士で幼い頃からずっと一緒で、多分、物心ついた時には好きだったと思う。
人形のように綺麗で、でもわがままで、寂しがり屋で、横暴で。
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