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花はいっぱい 12

 それでも、そう言うのはオレにだけ向けてくれるから、ちょっとオレは特別なのかと期待した時もあった。 「喜蝶には、  っきっぱり、オレは相手にしないって言われ てるのに、  諦められない!」  αとΩだけにある特別な繋がりの運命の番。  それはβには存在しない絆だから、『運命の番』が欲しい喜蝶にとって、βはただβと言うだけで恋愛対象外だった。 「 も、こうやって  喜蝶が、恋人を連れてくるの、見るの やだよ!」  泣きじゃくって、ここで何を言っても変わらないのに、毎回毎回恋人を連れてきてオレに紹介されることも、関わらないようにしようとしても纏わりついて来ることも、もう疲れたし、辛いし、苦しい。  それでもやっぱり、あの瞳に自分が映るのが嬉しくて、突っぱねきれない自分がしんどい。 「だったら僕と恋人になってさ、喜蝶じゃなくて僕を見たらいいと思うよ?」 「へ  ?」  オレを抱き締めていた細い指に力が篭って、抱き締めて来る六華の体が温かい。  そろりと顔を上げると、少し困ったような顔で笑われて、さっきの言葉の真意を掴み損ねてキョトンとした。 「涙止まったね」  柔らかい表情のまま六華はハンカチでオレの涙を拭いて、今だにぽかんとするオレの頭を優しく撫でてくれた。 「返事は急がないんだけど、ちょっとでいいから考えてみてくれる?」  ひく ひく としゃくりが残るけれど、何度も瞬く目からは涙は出ない。 「そう言う道もあるよって」 「え  ええ⁉︎」  びっくりして腕の中から逃げようとしたけれど、六華の腕は意外なほど力が強くて逃げることを許してくれなかった。  至近距離で改めて見る六華は、時折見せる男らしい表情で真っ直ぐオレを見ていて、恥ずかしくなって俯いた。 「意外と力、強いでしょ?薫が頼ってくれるなら、僕   俺、男らしくなるように頑張るからさ」  僕を俺に言い換えて、照れたように笑う六華に抱き締め直されて、オレはどうしていいのかわからなかった。  返事をすることができなくて、朝の待ち合わせの場所の手前で立ち尽くすオレに、六華は気にしてない風に笑顔を作って駆け寄ってくれた。  六華も喜蝶とはまた違った美形なのだけれど、喜蝶を見た時のように舞い上がりたくなる感じはしなくて……  友達だと思っていただけに、好意を向けられて嬉しいよりも、戸惑いの方が大きかった。 「おはよう」 「おはよ   あの、 」 「喜蝶は彼女とでしょ?」  手を取られ、ふふ と笑われる。 「じゃあ、薫を今日から独り占めできるね!」 「も もう  何言ってんの」  手を繋ぐこととか今までもあったことなのに、改めてこうやって触れられると恥ずかしくて、しっかりと握られた掌に汗が流れる。 「あの、えっと   手汗、すごいから……離して  」 「ごめん!緊張してるからかな 」 「違う!六華じゃなくて  オレの手汗だよ」  離そうとした手がなんとなく離しがたくて、指先だけ触れ合わせて動きを止めた。  少ししっとりとした、温かな指先。 「りっかぁ?薫も。遅刻するけど、何してるの?」  少しぽやんとした感じの声がして、圧を感じて振り返った。  キラキラと音がしそうな三人組が、気怠そうにこちらに向かって歩いて来ている。  オレ達が遅刻だとしたら自分達も遅刻のはずなのに、声をかけて来た三人は焦りのカケラも見せない。 「銀花(ぎんか)もだろ?」  ぷくーっと頬を膨らませて言い返す六華と、三人の真ん中の銀花が双子だと言われてもピンと来ないのは、外見がカケラも似ていないからかもしれない。  でも、こうやって並ぶと似てる……気がしないでもない? 「俺はー……(しのぶ)(みちか)を迎えに行ってたら遅くなった」  左右に侍らせている二人を見て、へらりと笑う。 「たまには、いっしょに行く?皆で行くと楽しいよ?」  両隣の二人は遠目に見たことがある。  すごく目立つからこちらが一方的に知っているだけだけど、確か二人も兄弟だったはず。

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