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花はいっぱい 13

「止めとけ、銀花」  こちらに来ようとした銀花の肩を掴んで止めて、仁が首を振る。  小さく鼻を鳴らして匂いを気にする素振りをしてから、 「誤解されたら悪いから、俺達は俺達で行こうか」 「だな、悪いな。波風立てたくないんだ」 「六華も誤解されるようなことするなよ!」  二人の視線はまだ繋いでいたオレと六華の手に注がれていて、でもなんのことだかさっぱりわからない。 「  ?」  キョトンとするオレを置いて、銀花を引きずるようにして三人はさっさと行ってしまって、口を挟むことのできなかったオレが六華に説明を求めた。 「えと、あいつらは幼馴染みだよ。あとは……喜蝶の匂いでも残ってたんじゃないかな?」 「え  そんな 匂う?」  清潔感には気をつけているつもりではあるけれど、突然やってきて居座る喜蝶の匂いまで言われてしまうと自信がない。  袖口を鼻に近づけてみても、やっぱり良くわからなかった。 「さぁ  ごめん、俺はよくわかんなくって」  匂いに敏感なαならともかく、オレ達じゃイマイチピンとこないのも仕方ないことかな?  とりあえず遅刻するといけないからと、手を改めて繋ぎ直される。 「急ごっか」  にこにこと笑う六華に引かれて、学校へと向かった。  最後の問題を書き終えて、カラリとシャープペンを転がした。  昨日の喜蝶の新しい恋人の話や、六華に告白されたことを考えていたせいか勉強が捗らなくて、結果が返ってくるのが怖くて仕方ない。  肝心の喜蝶は元々テストだからって勉強するタイプでもないし、六華は几帳面にコツコツするタイプだから問題はないんだと思う。 「オレ一人、あわあわしてる気がするなぁ 」  そう自覚すると自分ばかり割りを食っている気がする。  ぼんやりとしている間に用紙が回収されてホームルームが終わって……いつもなら喜蝶のところに飛んで行くんだけど、先に六華が席までやって来た。 「やっとテスト終わったし、どっか寄ってから帰ろっか?」  喜蝶が……と言う前に手を引かれた。 「行こ!」  引っ張られて、駆け足で下駄箱に行って、このままよく行くカフェテラスにでも行くのかと思っていたら、そのまま校門を潜ってしまった。 「え?どこ行くの?」 「ん   えっと、新しく出来たトコ」  こちらを振り返り、真剣な様子で言うものだから、そんなに行きたかったのかな?と思ったんだけど、校門を少し過ぎたところで振り返ってその理由に気がついた。  校門の外で、喜蝶を待ってる彼女の姿……  それを見た途端、ぶわっと目の端に滴が盛り上がって、思わず嗚咽が出てしまった。 「 っ    ごめん、失敗した」  進んでいた速度が緩んでやがて止まり、六華はションボリと項垂れて振り返る。 「  気付く前にって思ったんだけど」  走ったせいで上がった息を抑えつつ、オレの涙を拭いて笑う。 「せっかくのテスト明けだよ?なんか楽しいことしよ!」 「  うん」 「ちょっと、気持ちの整理ができるまで、あいつとは少し距離置いてさ。俺がずっと傍にいるから、ね?」  六華といると、すごく楽しい。  話が合ったり、好みが似てたり、タイミングが合ったり、そう言ったところが楽で、喜蝶といる時のようなハラハラした感じがなくて落ち着く。  穏やかでいられて、それはいいこと なんだと思う。 「ん  」  繋いだままだった手を握り返して、今度は自分から一歩踏み出してみた。  どんなに執着してみたところで、喜蝶はΩしか相手にしないって言っているんだから、諦めるべき だよね?

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