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花はいっぱい 27

 うとうととした微睡の中でふと思い出したのは、小さな頃にした喜蝶との会話だった。  母が書類を書くのに使ったんだろう、母子手帳をしまい忘れていた時が一度だけあった。 『これ、なんてかいてあるの?』 『かんじはよめない  でもこっちのカタカナはよめるよ』 『かおる、ベータなの』 『   うん』 『ベータだったら、おれのつがいになれる?』 『なれない』  なれない。  これが全て。  はっとなって体を起こした。  そうだ、その後、パートナーの話をしたんだっけ? 『いっしょにいられないね  』 『やだよ!かおるとはなれない!じゃあ、じゃあ、じゅうはちになったら、ぱーとな?になったらいいんだよ』 『そしたらどうなるの?』 『ずっといっしょにいられる‼︎』  子供っぽい安直な考えで出た会話だった。 『じゃあぱーとな?なるー!』  考えなしの、賛成。  あの頃は、パートナーになった所で、運命が現れてしまえば何の役にも立たないって分かってなかったから。  ああ、そんな会話をしたな と思いながら目を開けたけれど、ひどい頭痛とあまりの体の怠さに体が起こせなかった。  ギリギリと締まっていくような痛みは初めてで、光が目に入るのも厭わしくて両手で顔を覆う。 「なに これ   」  これが抑制剤の副作用?  昨日説明を受けた副作用の種類を思い出そうとしたけれど、考えることができなくて諦めた。でも、確かに頭痛と倦怠感とあったはず。  今までの副作用とは段違いの状態に、一瞬休もうかとも思ったけれど、いつもより長引いた発情期に昨日の病院にと、ずいぶん長い間休んでしまっていて……  さすがにまずい。  起きることができないオレに、母は休んだ方がいいと勧めてはくれたけれど、どうしても具合が悪ければ保健室に行くと約束をして校門まで送ってもらった。  久しぶりの学校は入りにくいなぁと思っていたら、校門前で六華が待ってくれていて、さっと荷物を持って手を引いてくれた。 「そこまでは大袈裟だよ!」 「俺がしたいからしてるのー!あと、授業のノートもコピー取ってあるからね」  体が楽になってからはネットでの授業に参加したりもしていたけれど、補いきれなかった遅れをどうしようかと思うと頭が痛かったから助かった! 「昨日は病院行ったんでしょ?具合悪い?」 「調子崩したんじゃなくて、薬貰いに行ったの。合わなくなってたから」 「ええ?そっかぁいつもはもっと軽いもんね?」  温かい手の感触が嬉しくて、朝の辛い体のことがどっかに飛んでいくようだった。 「あ、六華のお父さんに病院で会ったよ!」 「はぁぁぁ?聞いてないんだけど!」 「それ、言っちゃダメだからだと思う」  なんか患者のことは言っちゃダメだったんじゃなかったかな? 「それでもさぁ!ちょっと何か言ってくれてもいいでしょ⁉︎薫のこと心配してるってあれだけ言ってんのにっやっぱり俺の話なんか聞いてないんだ!」  ぷくーっと膨れて怒りを表す六華に、そんなことないよと言葉を返す。 「オレが六華の友達だってすぐに気づいたよ?六華のこと気にかけてるってことだろ?」 「…………うん」  まだ表情は拗ねたままだったけど、小さな返事を返してくれたってことは、わかってくれたってことだよね。

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