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花はいっぱい 34

 喜蝶の様子を見てきた母に言わせると、思ったよりも普通そうだった と言う感想が返ってきた。  玄関まで出てこれていたし、薬で取りきれない痛みで辛そうではあったけれど、しっかりとした受け答えを返してくれた と。  それは、大人用の猫被りだよと思ったけれど、言葉に出せなくて曖昧な相槌を打った。 「  それから、怖がらせてごめんって、心配してくれてありがとうって伝えてって」  ぐっと言葉が詰まる。  こちらの都合で突き放したのに、そうやってオレを気にかけるとこが ズルイ…… 「喜蝶くんもねー……運命に拘らなかったらいい子なんだけど」  喜蝶の両親を見ているからか、Ωと結婚した母はやっぱりそこのことに敏感だと思う。  運命に負けないと言う母と、運命以外目に入らない喜蝶の両親と……  在り方として全く逆の家庭なんだと、改めて思った。  朝、昨日 と言うより今日帰ってきた父と朝食の時に顔を合わせることができた。  遅く帰ってきたのに、それからまた母と話し込んでたみたいで、ちょっと眠そうなのが気にかかる。  仕事忙しいのに帰ってきたら忠尚のことと喜蝶のことで悩ませてしまって、体を壊したりなんかしなければいいんだけど。 「喜蝶くんのことは、お父さんとお母さんが様子を見に行くから、気にするんじゃないぞ」 「う……うん」 「それから   須玖里さん、って言うのか?」 「うん」 「昨日、母さんから聞いた」  ぽつ ぽつ と言う父は話にくそうだ。 「だ  ダメかな?」 「お母さんと一緒で……急で驚いてる」 「急  うん、急だよね」  毎朝出てくる目玉焼きをフォークて突つく。  黄色いとろりとした黄身が溢れるのを見ながら、ぎゅっと唇を噛んだ。 「  でも、なんか ね。しっくりきたって言うか……この人かなって思ったって言うか  傍にいないのが淋しいんだ」 「淋しいって  今まで話にも出たことなかった人だろ?」 「だって  ついこの間、会ったんだもん」 「この間って、やっぱりちょっと突然過ぎないか?」 「  だって」  だってだってと繰り返していると、小さな子供に戻った気分だ。欲しいおもちゃが手に入らなくて、ダダをこねている感覚で……  父にも小さな子供が我がままを言っている 程度のものだと思われてるんだろうか? 「だって、見つけたなって   」  そこまで言うと、真正面に座る父が顔をしかめて急に突っ伏してしまった。何事かとキッチンから飛んできた母がそれを見て、やれやれと肩を落とす。 「もー!朝からお父さん泣かさないのよ」 「泣か  っ⁉︎」 「  泣いてないよ、勝手に泣かさないでくれる?」  はー……と長い溜め息を吐きながら体を起こし、縁の赤い目を擦った。  眠いから ではない赤さだ。 「また、挨拶に行かないとね」  二度目の長い溜め息を吐く父は、やっぱり少し泣きそうだった。 『ごめん、今日はお休み!(>人<;)』  六華からのそのメッセージを見て、携帯電話を下ろした。  その一言以外には何も書かれていなくて、調子が悪いのか、それとも昨日のことに関してなのかさっぱり分からなくて、問い返そうかどうしようか悩んだ。  喜蝶にもメッセージを送ってみたけれど、既読はつくけど返事はなくて、こちらもやっぱり悩みのタネで。  今朝も様子を見に行った母からは、普通にしていた とは聞いたけれど……  会いに行くべきだったかも……  たった一人で痛いのを我慢している姿を思い浮かべると、今から引き返して喜蝶を見舞いに行くべきなんじゃないかって思わず足が止まった。 「   かおる!みーつけ!」  ぽん!と肩を叩いて来たのは銀花だ。  びっくりして大袈裟に体が跳ねたけど、キラキラした顔を見上げて「おはよう」と返す。朝日ばりの眩しい満面の笑顔が返ってきて、思わず目をしばたたかせた。 「おはよー。りっかね、今日はお休みだから、知らせとこうと思って」 「うん、ありがとう。メッセージ来てたよ」  つぃ と視線を滑らせると、銀花の後ろにはやはり仁と義が並んでいる。 「おはよう」 「ああ」 「おはよ」  六華とは友達だけれど、普段関わりのない三人とは話がなかなかなくて、一瞬流れた沈黙にどっと汗が出た。

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