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花はいっぱい 35

 それでなくてもαは存在感が半端ないのに、この三人に寄って来られると、喜蝶で慣れているオレでもちょっと逃げ出したくなる圧迫感がある。  本能とか、なんかそんな辺りがざわざわして落ち着かないから、ちょっとずつ距離を開けてから視線を逸らした。 「えっと  じゃあ、行こっか」  歩き出そうとしたオレの手を、仁が掴んでぐぃっと力強く引っ張った。  体が大きくて力が強いせいか、仁にはなんてことない動作なのかもしれないけれど、小さいオレは振り回されるような感覚になってしまって、思わず変な声が出た。 「へ⁉︎」 「あれ?違う匂いしてる」  男っぽい作りの顔が近づいて、耳元でスンスンと鼻を鳴らされて、いきなり匂いを嗅がれるのはさすがに恥ずかしい!  耳に息がかかるのがくすぐったくて、顔が赤くなるのを感じた。 「仁!失礼だよ!」 「あ、悪い」  手を離されてその反動でよろよろとよろめくと、今度は義がオレを支えながらスンスンと髪の匂いを嗅いでくる。 「や   何っ」 「義!だーかーらー!失礼!」 「ごめんごめん」  そう謝るも、心から謝っている謝り方じゃない。 「りっかから頼まれたんだよ、きちょうが近づかないように匂いをつけておいてって」 「においって   」  恥ずかしくて、ますます顔が赤くなっていく。 「俺達の匂いをつけてたら喜蝶も簡単に近寄れないだろうって」 「俺達のが上だし」 「上だからな」  仁と義はそう言ってくすくすと笑い合う。 「そん  そんなの  えっと、悪いからいいよ」  仁達になのか、心臓になのか、どちらとも言えないけれど、オレは全力で首を振る。 「そう?まぁ他の奴がいるならいいか」 「六華は心配しすぎだな」 「だな」  ほっとして、三人に尋ねてみた。 「六華はどうして休みなの?」 「うちの父さんに怒られて寝込んでる」 「凹んでるだけだよー」  きょとんとしたのがわかったのか、銀花が説明をしてくれた。 「おとうさん出張でいないから、仁達のおじさんが代わりにね、悪いことしたよねって叱ってくれたの」 「あ  そか。そんな時に、ごめんね」 「かおるが悪いんじゃないよ?一般人に手を出しちゃダメってのを破ったりっかが悪いんだよ」  銀花はにこにこと手を振ってくれるけれど、親がいない時に起きた事件にしては重すぎる…… 「あ、でも顔を見せに行ったら喜ぶと思うよ」  ね?と幾分喜蝶よりも茶色っぽい瞳が覗き込んで、ねだるように細められた。 「うん、放課後寄るね」 「りっか喜ぶよ!」  αやΩって人種は、どうしてこう無駄にキラキラしてるんだろう……?  木とガラスの扉を押して入ると、こちらを見た忠尚の顔がぱっと明るくなって、それに釣られてオレも自然と顔が笑ってしまった。  お客もいるのに、いそいそとカウンターから出てきて駆け寄ってくる。 「いらっしゃい! あの   昨日は、あれから……」 「また、改めて話がしたいって」  そう言ったオレの言葉を、良いことと受け取っていいのか、悪いことと受け取っていいのか判断できなかったのかだんだん顔色が青くなっていくから、慌てて笑顔で「挨拶したいんだって」と付け加えた。

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