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狼の枷 5

「来るな‼︎」  今にもひっくり返りそうな声で怒鳴るが、体は小さく震え続けている。 「そうか」 「  っ ふ、  ぅ  。ホント、こっち来ないで   」  充血してしまった目からまた涙がポロポロと溢れる。  全身で大神を拒否する姿は頑なで、これ以上刺激しても碌なことにならないのは明白だった。 「水分だけでもしっかり摂っておくといい」  ベッド脇のサイドテーブルに置いてあるペットボトルを指差すが、その動作だけで震え出す始末だ。  細い体を、小さく縮こめ……  寄る辺ない……  ひどく庇護欲をそそる。 「また来る」  だが幾ら守ってやりたいと思っても、自身が恐怖の対象では意味がないと大神はよくわかっていた。  正気の今、自分の姿を見ない方が良いだろうと部屋を後にした。  陰鬱な気分だった。  抑制剤のせいだけではない、昏い気分だ。  けれどそれがあかに拒絶されたからからかもしれないとは、思い至らない。  コンコンとノックの音が聞こえ、煙草を咥える合間に「入れ」と告げる。 「失礼します。  やっぱり変わりないようですね。勝手かと思いましたが、瀬能先生に連絡を入れておきました。オメガの方を連れてこちらにいらっしゃるそうです」  するなと言ったことをした部下に対して怒ることもできたが、大神は煙を吐きながら小さく頷き視線を逸らす。  この状況で、それが最善なのは十分に分かっている。  けれど、  それでも、  あかを自分以外の誰かに触れさせる事に抵抗があった。  あの目が自分以外を見なければ良いと思うし、  あの体に自分以外が触れたら狂うと思った。  正気じゃない  と呟いて笑う。 「大神さん?」 「    」  独特なキツい臭いに目が回りそうだった。 「勝手な真似をしてすみませんでした」  重ねて謝る直江に手を振って退出させ、大神はまた雨の降り出した外に目をやった。  普段、なんでも飄々と受け流す瀬能がベッドの隅で蹲るあかを見た途端、青くなって大神を振り返った。 「なんてことをしたんだ  」  その声に非難が混じっていたが、大神は何も言わずに受け止める。 「君、  あか君?だったよね?ぼくは医者なんだけど、ちょっと怪我を診せてもらえないかな?」  両手を広げて何も持ってないとアピールして、ジリジリとベッドに近づくが、少し近づいた所であかが首を振った。  寄らないで の仕草に、瀬能は頷いてゆっくりと下がる。 「じゃあ、ぼくじゃなくて、同じオメガ性の子ならどうかな?」 「オメガ……」  瀬能が手招くと、入口から少女がとことこと中に入ってくる。  人目を引く容姿にあかの視線がそちらに移った。 「うた と申します」  長い髪を揺らして丁寧にお辞儀をする彼女に、あかははっと動揺を見せた。

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