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狼の枷 11
回らない舌、ぼやける思考、引き摺り出された熱と、腹の奥が攣れるような焦ったい感覚に、ギュッと自身をかき抱く。
まだ生々しく覚えている割開かれる痛みと、その奥に注ぎ込まれる液体の熱さ……
「 ふ、 ぁ」
自然と背中がしなり、何のためについているのか意味を見つけることが出来なかった胸の飾りがつんと尖る。
男の大きなざらりとした手が撫で上げた箇所がざわざわと粟立った。
────息が、熱い。
吸い込む息の中に、引っ掛かりを覚えた気がして呼吸が止まった。
────あの、匂いだ。
優れた牡の、組み敷かれて嬉しいと思わせる、あの男の匂いだと一瞬で悟る。
姿は見えない
近くにいる?
あかは自然と小さく鼻を鳴らした。
「 いる 」
そう呟いてから、いや と首を振ってゆっくりと深呼吸を繰り返した。
「 こっちからは、駄目だ」
幸いあかの家には少し迂回すればいいだけで、ぐっとカラカラの喉に唾を押し込んで踵を返した。
不機嫌にこちらを睨む視線の強さに、直江は振り返ることができない。
この後の自分の処遇に思いを馳せながら、あかを見つけるために指示を飛ばした。
「お前達は家の方に。見つけ次第連絡と監視を くれぐれも乱暴な事はするな」
それから と指示を考えるも、突き刺さる視線が痛くて考えが纏まらなかった。
「 大神くん、睨むの止めてあげなよー誰だってあんな体で三階から逃げるとか思わないって」
「思う思わないではなく、実行されたことが問題なんです」
忌々しそうに瀬能を睨み付けてギリギリと奥歯を鳴らす。
「いやしかし、丈夫な子だね。しばらくは寝込むと思っていたけどね」
「そうですね、まだ熱も下がり切っていないと思うんですけど」
形の良い眉尻を下げて、うたは心配そうに人混みに目をやった。
雑音と、雑多な臭いと、ごちゃごちゃとしたそこでは人探しが困難だ。
「最終的にはアパートに戻るんじゃないかと思うけど、途中でヒートになったらまずいよねぇ」
世の中の全てのバース性がつかたる市で暮らしているわけではなく、暮らしやすいから集まっているだけで、そこで暮らすように強制力があると言うわけではない。
街中で発情期になって、万が一があるとも限らなかった。
「 匂いがする」
煙草を咥えようとした大神が手を下ろしてぽつんと呟く。
人混みの方に目をやって、普段でも鋭い眼光を更に強くしてそちらを睨みつけた。
「この人混みでかい?」
「 」
「気のせいじゃないのかい?」
「いえ、ヒート時のオメガはひどく匂うので」
「そう。そう言うことにしとこうか。直江くん、向こうを!」
瀬能の言葉に頷いて、直江はそちらに向かって走り出す。
大神が示した方向は、あかのアパートとは違う方向だった。
あかが逃げ出してからすぐに気付いたため、そう遠くには行っていないはずだし、事前に調べておいた身辺には逃げ込めるような場所はなかったはずだ。
家に帰るしかない。
どんなに酷い家庭だろうと、そこ以外に逃げ込める場所がないのであれば、そこに帰るしかないのを直江はよく分かっていた。
「 っそ、なんで大人しくしていないっ」
大神が手元で様子を見ると言ったのを強く反対しなかったことを後悔しながら、悪態を吐いて辺りを見渡す。
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