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狼の枷 13

 傍らに放り出されていた自分の服を引き寄せて、その皺を指で伸ばした。 「俺の   どこ ?」  ぐっと唇を唇を噛んで顔を顰める。  大神が一歩足を動かすとその表情がぴくりと歪み、また奥へと後ずさった。 「少し待つ。必要な物があるなら用意するといい」  引き摺って行くことも可能な筈なのに と、直江は思ったが口に出さなかった。  大概の大神の行動は読むことができると思っていたが、あかに関しての動きはどうも読めない。  大神の視線が動き、座り込んで動かないあかの足に注がれた。 「直江、揃えてやれ」  擦り切れて血の滲む足の裏は見ているこちらが顔を歪めたくなる状態で、直江は素直に頷いてあかの隣に膝をついた。 「まず何がいる?」 「     」 「持っていくものだけ言ってくれれば、後はこちらで処分しておくから」  ぎゅっと眉間に皺が寄り、口がわなないた。  泣くのか と思ったが、涙を見せずにあかは「埃っぽいので窓を開けてください」と頼んできた。  確かに、家電などが置いてあったらしい場所には長年の埃が塊になって転がっており、室内に細かい汚れが空気中に舞っている。目の前を舞う埃を手で払うもするりと逃げて行くだけで解決にはならない。 「ここを開けておくからね」 「   ありがとうございます」  室内に通る空気に掻き消えるような声を絞り出し、よろよろと這いずって放り出された荷物の方へと向かう。 「消臭剤が多いな」  足元に転がる「無香料」の文字を見せる消臭剤を爪先で転がし、直江は他にも転がる同様の商品を眺めた。 「   母の、彼氏が 潔癖症気味の人で……」  クシャクシャになった服を摘んで、パタリと腕が落ちる。  辺りを見渡し、項垂れては小さく肩を震わせる姿は寄る辺ない心細さそのままで、直江はあかの傍で辛抱強く動くのを待っていた。  大神が煙草に火をつけたのか、つんときつい臭いがしたのに背中を押される様に、あかは傍を指差す。 「  この辺の服が、あると 嬉しいです」 「何か袋はある?」  ちょっと考え込む素振りを見せてから、窓の方を見た。 「確かあっちに鞄が置いてあったんで  取ってきます」  壁を支えに立ち上がり、あかはひょこひょことよろめきながら鞄があると示した窓の方へと向かう。その背中から視線を足元の乱雑に放り出された服にやり、直江は溜め息を吐いた。  お世辞にも綺麗な物とは言い難い。  大神の傍にいる人間にそう言った物を使って欲しくなくて、直江は眉間に皺を寄せた。 「こちらでも用意するから、衣服は最低限で 「止めろ!」  遮られた言葉に一瞬の判断が遅れたのか、直江は先に大神を振り返った。  駆け出そうとした大神の姿に窓の方を振り返ると、あかが窓から飛び出す後ろ姿だけが見える。  とっさに手を伸ばすも……  大神が窓枠を掴む前にあかは地面を蹴り出して、アパート裏の狭い隙間を走り出していた。

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