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狼の枷 14
古い緑に汚れたブロックを飛び越し、あっと言う間に姿を消してしまった。
「 え 」
窓枠に身を乗り出して、思わず間抜けな声を出した直江を大神が睨みつける。
「三階から逃げ出すのに、二階からなんて訳もないだろう」
「 っ」
しおらしくして見せた姿に騙されたのだと、ぽかんと大神を振り返る。
窓を開けさせ、足を怪我して機敏に動けないと思わせて……視線が外れるその瞬間を待っていた?
「追いかけろ」
裏手には念の為に別グループを待機させてあった。
「子供相手にそこまでする必要があるかと思ってたけど 」
急いで電話を掛けながら、今にも踏み抜いてしまいそうな古い階段を駆け下りる。
「裏手だ!急げ!」
血相を変えて走り出す大の大人達を見やって、大神は目を細めた。
「貧弱なガキと思って侮ったか?」
あの足で、想像以上に軽やかに走る出した姿を思い出して、大神は煙草を咥えた唇の端を歪める。
「 面白い」
思ってはいてもそれを実行に移せるかどうかは純粋な度胸だ。
わっと裏手で声が上がった。
あまり品の良いとは言い難い怒声に、大神はのんびりと紫煙を吐き出した。向こうの喧騒なんて他人事のように、深く煙を吸い込んでから息を止める。キツい、ジリジリと焦れるような、決して他の煙草では感じない感覚がして目が回るような気がする。
煙を出さないようにしながら気を落ち着けて目を開くと、昔ながらの古いコンクリート塀の向こうにふわふわとしたカラフルな頭が見えた。
まるで極彩色の鸚鵡を頭に住まわせているような、てんでばらばらな色味の髪がひょこひょこと動いている。
数歩歩いては大きく動く頭に、はっと大神が目を見張った。
古い壁が切れた箇所から、ぬぅっと顔が出てアパートの二階にいたままの大神を見上げてくる。
「シャチョ!」
軽薄そうな笑いが浮かんで、細長い手が大きく振られた。
「コイツだろ?探してるの」
極楽鳥を思わせるような、様々な色味に富んだ髪をカチューシャで上げた男が、ぶらりと下げた手にあかを引きずっていた。
首輪を掴まれたためか息ができず苦しげに顔を歪ませているが、抵抗する素振りが見えない。さっと大神の表情が曇り、その男の方へと駆け出した。
「捕まえといたよ。ナカからあんたの臭いがしたからさぁ」
「 レヴィ。その手を離せ」
「へ?」と声が出たのと、大神に殴られて横に薙ぎ倒されたのはほぼ同時だった。
弾かれたレヴィは声一つ上げなかったが、掴まれていたあかはその衝撃で小さく呻いて道路の上を転がる。
「 ────った……何すんだよ、いきなり」
「殴ったのか?」
「当たり前だろ?暴れんだから」
レヴィが避けるよりも早く、大神の手が胸倉を掴み上げた。小さくないとは言え、大神に掴み上げられると流石に足がつかないせいか、レヴィは苦しげに顔を歪めた。
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