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狼の枷 15

「何を執着してんのさ?こんな貧相ヤツに」 「それを決めるのはお前じゃあない」 「   っ」  玩具でも投げ出すようにレヴィを放り出すと、足元に転がって動かないあかを持ち上げる。  荷物のように小脇に抱えて歩き出すと、青くなった直江が駆け寄って大神とレヴィを交互に見やった。 「すみません、間に合いませんでした。車を回してきます」 「ああ」  数日前よりも確実に軽くなったあかに視線を移す。  顎を掴んで上を向かせてみると、小さく呻いて微かに大神の顔を睨み返してくる。ぐっと噛み締めた唇の端に血が滲み、その周りが微かに赤みが強いのに気が付いた。  レヴィに殴られた際の怪我をじっと見られるのは居心地悪く、それを避けるように腕を振った。 「  っ、はなせっ」  じた と足をばたつかせるもどうにもならず、抵抗の無意味さに声が震える。 「は なせってば っ  」  暴れてずれた体を抱え直された拍子に、脇が痛んで呻き声が出た。  レヴィに殴り倒された後に逃げようとした際に踏まれた場所だった。 「 っ」 「痛むのか」 「   」  ぐっと唇を噛んで首を振る。  弱味を見せて、何をどう逆手に取られるか分かったものじゃないと、あかは何も答えずに視線を逸らす。 「   そうか」  荷物を放り投げるよりも簡単に、あかを片腕で立て抱きの形に抱え直した。  筋肉の分かる胸板に押し付けられて、肌の匂いが否応なく鼻の奥を擽る。反射的に深く吸い込みたくなる衝動に戸惑って体を捩ったが、鋼のような手はそれを許さなかった。 「なっ 何っ 止めっ」 「車は?」 「もう来ます」  直江の言葉通り、目の前に艶のある黒い車が滑り込む。 「俺はっ  ──のらひゃ   っ」  突然回らなくなった呂律に心当たりがあったせいか、あかははっとした表情をして見せた後に、地獄に突き落とされるような表情をした。 「大神さん、匂いが……」 「ああ」  大神と直江は視線で窺い合う。  鼻に届いた濃い発情期フェロモンの匂いの事を思えば、意識を飛ばしてこちらを求め始めるまで時間があまりない事ははっきりしていた。  直江は視線で汲み取った指示通りにさっと運転手と交代する。 「パーティションを下ろします」 「具合を見て抑制剤を使え」 「はい。オメガ用の抑制剤は必要ですか?」 「いや、煙草でいけるだろう」  そう言って大神は慣れた手つきで火をつけ、その煙をあかに向けて吐き出した。  急に煙を吐きかけられて咳き込み、苦しそうな呼吸が聞こえる。

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