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狼の枷 28
体を洗ってくるようにと促されて、あかは浴室に足を踏み入れかけたが思い留まって後ろを振り返る。
「大神さん は 」
「君が気にする事じゃないよ。さぁ、瀬能先生を呼ぶから、それまでに支度を」
「瀬能 って、足を診た先生?」
まだ鈍く痛む足に巻かれた包帯を見下ろす。
「そう」
「支度って、今度は なに、されるの?」
うたにはもう一度会いたいと言う思いはあったが、医者の印象は余り良くなかった。
身構えて警戒するあかに、直江は苛立ちを隠さない表情を向ける。
「これだけ騒動を起こしてまだ何かするのか!?」
「ちが っ お、大神さんに、説明してもらえたら 俺 」
「いい加減にしたらどうなんだ?君一人を助ける為に大神さんがどれだけ時間と手間を割いているか……これ以上、手を煩わせるな」
自分の事で迷惑しているとはっきりと言われて、あかはぐっと拳を作った。
「たす 助けるとか……言っても、こんな事しといてヒーロー気取りなんかっ」
まだ体の奥に燻る熱を振り切るように、直江に向かって怒鳴りつけた。
「不特定多数に輪姦よりましだと思うけどね」
「ふと 」
「街中でヒートを起こしたらどうなる?」
「……」
「もっとも、あの様子じゃ大神さんが捕まえないと、売られた先で回されてただろうけど」
「捕まえないと?」
奇妙に落ちてきた沈黙に、直江が先に気まずそうに視線を逸らした。
「さぁ準備を 」
「どう言う事っ!?教えてよ!」
掴みかかろうとしたけれど、直江が反射的にそれを避けてしまった為にあかはたたらを踏んだ。
「 君が本来売られる相手は羽田って奴だった」
「ほんら い ?」
「……何に使われるかは分からないけれど、人間としては扱われなかったと思うよ。君がオメガだと気づいた大神さんが寸でで君を保護したんだ」
ひゅっと息が詰まった気がした。
「でも だったら こんな……」
「いつもは抑制剤がちゃんと効くんだ、君が効きにくかっただけで。まぁ ただ、オメガの発情フェロモンに抗って項を噛まなかっただけで十分だと思うけど」
「 」
「大神さんは『最悪』から君達オメガを救う為に尽力している。それだけは理解しておいて」
「俺 の、他にもこんな事してるの?」
噛まれた痕の残る体を抱き締める。
熱を持った視線……
熱い体……
「他の人にも ?」
「それはそうだろ?きちんと登録されてないオメガは狙われるからね。匿って然るべき対処をしないと」
「 」
縋り付く腕に応えてくれたのは、皆にそうしているからなのだと知って、あかは小さな胸の重みを感じて項垂れる。
もやもやとしたその重さの正体を見つけられず、あかはむっつりと口を引き結んで浴室へと入って行った。
ナカに残された痕跡がシャワーの水で洗い流されるのを見た時、一抹の寂しさと白い筋を残すソレに縋りつきたい気持ちに戸惑った。
例え僅かな欠片だとしても、大神の物が離れて行ってしまうのが……
辛い。
「…………」
初めての時は、自分の股間から垂れ流れてくる精液に戸惑いを隠せなくて、驚いて、嫌悪感でいっぱいで、体から洗い落としたくて仕方なかったのに……
いつの間に、それを惜しむようになったのか、あか自身良く分からなかった。
ただ、ソレが排水溝に流れて行ってしまうのを見ると、繋がりが無くなっていく気がして、胸の重みがもっと重くなって、涙が勝手に溢れてきた。
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