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ひざまずかせてキス 27

 指定された向かう先はつかたる市に用意されているセーフハウスの一つだった。  どこに向かうかは、運転手であるオレ自身も直前にしか知らされない。いつもどうやって決めているのかは謎だが、もしかしたら気分なのかもしれない。  華美を好まず、機能さえあれば極々シンプルな物を選びがちな為か、どこの部屋に行っても同じような よく言えばこざっぱりとした、悪く言えば飾り気のない無機質な印象を受ける。  そのせいか、大神の部屋は相良の部屋を見た後だと酷く味気ない感じを受けた。  少し物足りなさを感じたような気がして、そわりと辺りを見渡す。ゴミ一つ落ちていない部屋の床は綺麗な物で、埃の積んだ部屋とは大違いだ。 「少しは眠れたか?」 「はい、ありがとうございました」  寝起きにすがるの怒涛の追い詰めがあったが、少し眠れたお陰で頭はすっきりしている。 「そうか」  さすがに一息つくのか、ネクタイを外して手渡してきた。 と、するとスーツも脱ぐのだろうから、傍らでそれを受け取る為に控える。 「以前言ったように、ここからはお前は待機だ」  投げられたスーツの上着は生地のせいか非常に重く、言われた言葉に焦っていたオレはそれを取り落としてしまった。 「すみません、クリーニングに出しておきます!」 「レヴィとすがるが戻ってきている。二人で手分けすればお前の分くらいは働けるだろう」  二人分働いている と取れたなら頭の中は花畑になって良かったのだろうけれど、三歩歩けばすべてを忘れるようなレヴィと、黒犬最優先で人格破綻しているすがるで代わりに成れてしまうと言われたのかと、斜に構えて考えてみると、なんとも言えないような苦い感情が湧き上がる。  役に立っているのか立っていないのか、微妙な所だろう。  額面通りに受け取るべきなのか、それとも遠回しに無能と言われているのか…… 「  気になっている件に取り掛かってもいいし、ここのところ少し落ち着かなかったからな。のんびりするでもいい、隈を消してこい」  以前にもあったように、大神はオレの隈を指した。 「しかし……離れては大神さんの盾になる事が出来ません」 「盾なんぞいらん、お前は秘書だろう?」 「肩書は秘書ですが、あなたが望むなら何にだってなります。盾でも、鉄砲玉でも、便器でも、あなたが望むモノに」  あの地獄から引っ張り上げてくれた大神に、恩が返しきれるとは思わない。  ただただオレは新反解体法を擦り抜けつつ、残された組員達を引っ張る為に奮闘している大神に少しでもよい未来が来て欲しいと思うのだ。 「便器は間に合ってる」  くぃっと親指が示すのは奥にあるトイレのドアだ。 「新反解体法で拳銃を使うリスクが跳ね上がったからな、今じゃ盾も玉も必要ない」 「油断していて撃たれては大変です」  新反解体法では、銃器に関する規制が特に強化されたと一時期騒がれた程だ。科学技術や、3Dプリンタの普及、情報の潤沢化に伴う市民への銃器ないしは銃火器に準ずるに価する物への垣根が低くなり、一般人が安易に銃火器に準ずる物を手に入れられるようになってしまった事により、その罰則の内容にも取り締まり方にも変化が訪れた。  その為に、強い破壊力と殺傷能力を持った銃火器だったが、安易に使うにはハイリスクすぎる物となって久しい。  そうなると、結局人は原点回帰して肉体に重きが置かれ始めた。  けれど…… 「幾ら鍛えていても、撃たれれば終いです」  ネクタイを投げワイシャツを脱げば、どうやって鍛えたのだろうかと思わせる筋肉と小鬼達が姿を見せる。

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