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ひざまずかせてキス 28

 脊椎に沿って立つ剣とそれに絡まる龍王、そしてやはりこちらを睨み続ける小鬼が……  何年経ってもそれに恐怖を覚えるのは、それだけ初めて見た時が印象的だったからだ。 「そうなればそれまでだろう」  そう言う大神はそうなる事を望んでいるかのようにも見えて、思わず顔を顰めた。  ワイシャツを渡そうと振り返った大神が顔を見て、小さく眉を上げる。 「今はどこも抗争どうこうより、潰された組の立て直しに躍起だ。心配しすぎると頭まで禿げるぞ」 「人が気にしている事をっ!」  元々薄い質なのか、『aristocrat』で処理されて以来何もしていないのに体毛は生えなくて……  相良にもさんざん言われて気にしているというのに、大神にまで言われるとショックが大きい。  悪意がないとは分かってはいるが、睨み返すのを止められなかった。 「  表情が、柔らかくなったな」 「は?」 「年相応に見える」 「そうおっしゃっても、私もいい年です」  毅然とそう返すと、唇の端が歪んで小鬼達を背負った背中が震えた。  そうすると光の加減で大神の背中に筋が浮き上がるのが分かる。右肩から左の腰にまで及ぶ、長い幾筋もの傷は普段は刺青の為に気にする事はないだけに、意識するとどきりと心臓が跳ねる。  その傷の由来は聞いた事はないけれど、尋ねる事はタブーだと空気が教えてくれていた。 「いい年 か。お前が思う程、大人は大人じゃないぞ?思い出したように馬鹿な事をするし、悔しい事があれば地団駄踏むしな」 「地団太を踏む大神さんを見た事がないです」 「そうだったか?」  そう言うと大神は風呂場へと行ってしまった。  今日はここで過ごすのだろう。  本来なら体を洗う為に一緒に入るべきなのだが、以前に自分でできると押し返されて以来、外で待つ事にしている。その間に着替えを用意し、冷蔵庫の中身を確認してからいつでもコーヒーが飲めるように準備をした。  頻繁に訪れていると言う訳ではないのに、相良の家の布団よりもふっくらとして気持ちのいいベッドを整え、汚れ物を集めて紙袋に入れた。  そして、大神が風呂から出てくるまでバスタオルを持って待機する。 「  これからどうするかは決めたか?」 「気になる事を先に終わらせようと思います。ご迷惑をお掛けする事はないと思いますが……川沿いの方の家をお借りしてもいいでしょうか?」 「好きにするといい」 「ありがとうございます」  何に使うのか、どうして使うのか聞いてこない辺り、放任と取ればいいのか筒抜けていると取ればいいのか迷うところだ。  願うなら、信じているから聞かない のだといいなと、雫の伝う逞しい背中を見詰めながら思った。    

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