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教えて!先生っ 21
「熱はない。 あのな、鷲見、ちょっと話がある」
居住まいを正して切り出したオレに、名字を呼ばれて不服そうだった二人も感じるものがあったのか、テーブルを挟んだ向こう側に座り直した。
少し頼りないような表情をしているけれど、それでも整った顔が真剣にこちらを向くと圧巻で、同じタイミングで噛み締められた唇に目を遣ってから拳を作る。
「 この間のことだが、オレが全面的に悪いのは認める。その上で……その、 」
あー……と言葉を探していると、目の前の四つの瞳が不安げに揺れ始める。
あんなことをしたとは言え、この二人はまだ学生で、右も左も分からない生徒だ。
「お前たちはまだ若くて 急いで番とか決める必要はないんだ。あ、いや、お前らはアルファだからそんなことを気にすることはないのか。 まぁただ、酒に酔った人間に唆されたからと若いうちから責任を負う必要はない。だから、今回のことはなかった事にして、二人にはまともな道を歩んで欲しいと先生は思うんだ」
こちらを見る漆黒の目を見返す勇気はなかった。
膝の上で作った拳を見詰めて一気に言うしかできず、これが大人として正しいことをしていると言う自信があったはずなのに、心のどこかで二人と離れたくないと叫んでいる部分もあって……
理性では、生徒に手を出すのはご法度と、分かっている。
本能では、この二人を手放してはいけないと泣き叫んでいる。
心が両方に引っ張られて、今にも裂けてしまいそうで……
「 あ、ただ その、子供 が できてたら、 ────」
堕胎同意書に名前を書いてもらわないと と思いながら、出た言葉は真逆だった。
「──── 産むのは、許してくれるかな?」
「せんせ?」
「何言って……」
何言ってるんだ⁉はオレのセリフだった。
なのに言葉が勝手に口を突いて出るのを止められない!
「認知とか養育費とかはいらなくて、許してくれるだけでいいんだっ父親らしいことをして欲しいとか言わないし、目の前にも表れないから」
いるかいないか分からない腹に手を当てて、庇うようにぎゅっと体に力を籠める。
「存在を 許してくれたら っ」
ふ と香るお日様の匂い。
暖かで、包み込む、安心できる、明るい匂い。
「 っっっ!赤ちゃんいつ生まれるの!」
「 おっ屋上でムリさせた!あれっ大丈夫なの⁉」
お腹を避けて、四本の腕がオレをぎゅうっと抱き締める。
「へ ?」
痛いとも思えるほど力強く抱き締める腕と、オレの項に涙を擦り付ける二人……
「せんせーと!俺たちの赤ちゃんっ!」
「いるの⁉ここ‼」
「へっ やっまだっ!まだ分かんないよ!検査しないと!」
「じゃあ明日朝一で病院な!」
「病院行ってはっきりさせよう!」
黒い瞳の中にキラキラっと星を浮かべ、二人はオレが話していた前半部分を丸っとスルーしてオレを抱き締めるのに夢中だった。
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