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落ち穂拾い的な 誘引フェロモン
凰珀と出鳳には先に出てもらい、瀬能に向き直ってそろりと切り出した。
「お尋ねしたいことがあって……」
「はい?どうぞ」
ちょっと重く切り出したせいか、瀬能は視線をこちらにじっと定めてオレの言葉を待ってくれている。
「アルファの、誘引フェロモン の効果って、どこまで影響のあるものなんでしょうか……?」
ふっと険しくなった眉は、それだけこの単語が不穏だと言うことなのだろう。
「それは、番になる前のお三方の間で使用された と思っても?」
「やっ そ、んな 悪い話ではなくて 」
そう取り繕ってはみても、聞く段階で答えなんて決まっている。
何とか撤回を……と思うも、どうしても拭いきれない不安があるのは確かだ。そして経験上、不安は最初に潰しておかないと放置すればするほど事態は悪化する。
「 二人に、 ちゃんと 好意を持ってはいるんですが……誘引フェロモンを使ったと言われてしまうと、 」
「 」
「二人のことは大好きなんです!いい匂いだし、引っ付いてたら安心するし、可愛いなぁって思うし、格好いいとも思うし 項の噛み痕も後悔なんて全然ないし 」
出鳳と凰珀を思い浮かべると、頬が熱くなるし胸がドキドキするし、幸せだけれども……
「ただ。あー この気持ちって言うのは、誘引フェロモンのせいだったりするんでしょうか?その きっかけ……だったもので 」
瀬能はふと考え込むような素振りを見せ、パソコンに視線を遣ってから小さく頷く。
「 いや、可能性としては低いんじゃないですか?」
「へ ?」
「誘引フェロモンは揮発も早いし、効くって言っても長期ではないです。あと、根拠としては歳ですかね、誘引フェロモンがきちんと出るのは大体二十代半ばから三十代半ばです、個人差はありますけどね。あの子たちの年齢で誘引フェロモンを出した と言っても、そうですねー……精通で妊娠させる可能性程度の薄さでしょうね」
「せ っ」
「効果はないと言ってもいいと思います」
効果は、ない ?
「え でも、オレ、その 酔ってたとは言え 」
「純粋に酔ってたんじゃないですか?体調が万全でなかったとか、お酒飲む前に胃に何か入れました?病み上がりで胃が空っぽのところにいきなりアルコール入れたりとかなかったですか?」
う と言葉が詰まるのは、そうだからだ。
そんなオレの様子を見て、瀬能が口の端に小さく笑みを乗せた。
「まぁ、本人たちの証言があるので、訴えようと思えばできますよ?その辺の法整備は充実してきてますし」
「いやいやいやいやっ!」
「それならまぁ、いいんじゃないですかね?あの年でフェロモンのコントロールが出来るって、優性の強いアルファって証明ですし。その証拠ってことで」
優性が強く出ているってことは将来有望ですよー と気楽に言ってくれるけれど、使ったと言うことはいつでも使えるし使ってしまえると言うことだ。
理性的に行動するように言い聞かせないとな。
二人を疑うわけではないけれど、Ωと違ってαは何人でも噛めてしまうから……
そんなことになったら憤死一直線の未来しか思い浮かばない!
「とりあえず、そのすりガラスに引っ付いている二人を連れて会計に行ってくださいね」
ちらりと後ろを振り返ると、引き戸のすりガラスに影が二つ貼り付いている。
瀬能に頭を下げて二人が引っ付いたせいで重い引き戸を開けると、キラキラとした瞳がこちらを見詰めていて……
「せんせー!大好きって言ってくれた!」
「俺たちのことでしょ?ね?俺たちのことだよね!」
う と言葉が詰まる。
まずは理性云々の前に盗み聞ぎしないと言う所から教えないといけないらしい……
END.
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