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青い正しい夢を見る 19
葉の揺れる音と、遠くの車の音、塀の向こうを走っていく新聞配達のバイクのエンジン音。
すべてを覚えていた。
「……寝れ て、なかったのかな?」
気怠い体を起こし、両目をじっと閉じると頭が痛む。
体を横にして眠っていたと思っていたのに、寝た気分になっていただけで睡眠をとれていなかったのかもしれない。もしくは起きている夢を見ていたか……
ここに来てからきちんと眠れたと言う日はなかったけれど、最近は特に酷くて毎晩がそんな感じだった。
「 っ」
卓上の小さなカレンダーに目を遣り、バツのついた今日の日付に思わず出そうになった溜め息を慌てて飲み込んだ。
『検査をしておいで』
子供が出来ているかどうか……
大奥様が言った言葉はシンプルなはずなのに、僕の気持ちが追いついていないのか実感が湧かなくて、夢の出来事を語られているような気分だった。
あれから、正美さんは屋敷に帰ってきていない。
いや、野村さんの口ぶりからすると、彼はもう実家であるここを出て久しいのかもしれない。
現に、彼の部屋を少し開けると臭いが微かにしかせず、きちんと整えられたまま放置されているその部屋はひやりとして生活感がなく、長い間人を受け入れた事がないのを物語っていた。
この屋敷の水の底に沈んだ雰囲気をそのまま押し込めたかのような……
それでも、なんとなくあの日に嗅いだ彼の臭いが気になって、そこの引き戸を微かに開けて覗き見たりもした。
その度に首の後ろがチリチリとするような感覚がして、慌てて戸を閉じる羽目になるのだけれど……
『交尾』をしてから一か月後に来いと言われて再び訪れた病院はやはり閉塞感そのものの雰囲気だ。
まるで動物の事のように吐き捨てられた医者の言葉に息が詰まりそうになったけれど、傍にいた看護婦もそれが当然と思っているのか表情は変わらなかった。
季節柄、日差しがきつくもないのにやけに眩しい気がして、病院に入る前にくらりと視界が回って思わず傍らの生け垣に手を置いた。倒れ込む程ではないけれど、嫌な汗が脇をくすぐる。
胸の辺りが重く感じてすぐにでも横になりたいけれど、ここで引き返すと屋敷で何を言われるか分からないので無理矢理足を前に出す。
僕が顔を見せると、にこやかに談笑していた看護婦達の表情が掻き消えて、隠す気もない侮蔑の表情に取って代わった。
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