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青い正しい夢を見る 27

 医者の掌の上に転がる毒々しい赤い色をした粒に戸惑い、そろそろと視線を上げると医者自身も困ったような顔をしている。  カラフルでつるりとしたチョコレート菓子を思い出させる色と形に、どうしても困惑が隠せなかった。 「ちょっと凄い見た目だけど、誤飲を避けるためだから」  そう言われてしまうと仕方がない。けれどそれと飲みやすいかどうかと言うと別問題で、飲む度に喉に引っ掛かりそうだ。  どうすれば飲みやすくなるのか考えていると、今度は小さな粒を見せてくれた。 「こっちは導入剤ね、睡眠の」  こちらは普段目にする薬と同じだった。  極端に大きい訳でも奇抜な色味をしている訳でもない。 「ところで、ご飯美味しい?」 「え   」  この質問は以前にもされた。 「楽しい事ある?」 「あの  」  医者はちらりと僕の後ろにある、待合に続く扉に視線を遣ってから少しだけ椅子の間合いを詰めた。医者が喋らなくなると待合でつけられているテレビの音が大袈裟なくらい大きく響いてきて、落ち着かなくてつい後ろを振り返る。  不自然な程、テレビの音が大きい。 「君は、意に沿わない事をされていたりはしないかい?」  潜められた声はともすればテレビにの音にかき消されてしまいそうだ。 「無理矢理、な 事はされてない?暴力は?」  はっと咄嗟に待合室を振り返り、そちらにまだいるはずの奥様の気配を窺った。  息を詰めて反応がないのを確認してから医者に向き直ると、辛抱強くこちらの返事を待っていてくれて……  先程、奥様が言った言葉は嘘だ と言おうとして言葉が詰まった。  震える程泣いてこちらを睨む正美さんの姿が、どうしても頭から離れない。  清水の屋敷に連れて来られた経緯も、今の生活がまともじゃない事も、あり得ない事を求められている事も十分分かっている。  この医者が僕に言わせようとしている言葉も分かっている。  そうすれば楽になれるだろう事も。  なのに、首の後ろがチリチリと痛みを訴える。 「     」  噛み千切られたような歯型の傷が……熱を持って僕の言葉を押し留める。 「ぼ  くは   」  嫌で嫌で仕方がないのに、  そこに救いの手がある筈なのに、 「   大丈夫、です」  そう答えてしまった僕に、医者は「はぁ 」と詰めていた息を吐き出して顔を両手で覆ってしまった。 「  せめて噛まれる前だったら    」  苦々しい声に返せる言葉を見つける事が出来なくて、「ごめんなさい」とだけ何とか絞り出して体を竦める。  縋りたい筈なのに、どうして? と自分でもよく分からないままに首の後ろを擦り、先程自分を押し留めた熱の治まりを確認して項垂れた。

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