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青い正しい夢を見る 28

 お菓子のようにも見える赤い粒と、それと比較すると驚く程小さく見える白い粒を飲み込んでから床に入る。  薄い布団はいつもの事ながら安眠を誘うようにはできていなくて、棺に寝そべるとこんな気持ちになるのかもしれないと想像しつつ、それならば と胸の上で両手を組んだ。  漏れる自嘲に自分の馬鹿さ加減を痛感しながら目を閉じると、世界はただの闇だった。  一片の光もない、色味もない。  ただただ、闇。  微かな浮遊感と、それ以外に感じるのは高揚のような焦り、それと  朦朧とした眠気。  ああ眠れるんだ と言う安堵と共にすとんとどこかに落ちる感覚がした。  ふと意識が覚醒して、部屋に満ちる青い光に目を細める。  陰鬱さは変わらないし、暗い圧し掛かるような部屋の暗さは相変わらずだったけれど、体を起こした際の軽さに戸惑って目を瞬いた。  決して寝心地のいい布団ではなく、気持ちよく眠れる場所ではなかったけれど、眠って疲れが取れたと思えるのは久しぶりの感覚だ。いつも起き掛けに感じていた頭の重さも目が回るような、重力にすら負けてしまいそうな重苦しさがなくて、ほっと息を吐き出して安堵を噛み締めた。  いい気分  ちゃんと眠る事が出来ただけで、それだけで、前向きになれたような、そんな朝だ。  障子を開けて、重いガラス戸を開けて……  匂ってくるのは相変わらず湿った土の匂いと苔、それから古い塀の匂いだったけれど、妙にそれが澄んでいるように思えて、  幾分スッキリした頭は気持ちを前向きにしてくれたらしい。  小さく聞こえてくる生活音と、鳥の鳴き声、それから風の音。  Ωを嫌う大勢の人々と、少しの味方と、  優しい野村さん。  そして、Ωの僕。  これが、僕を取り巻く環境だ。 「    」  ここを逃げ出す勇気も、外で生きて行く勇気もないなら、歩み寄る事はどうだろうか?  自分がΩな事はもう変わらない事実だし、助けてくれた医者や看護婦のような人達もいるだろうけれど、そうじゃない人の方が圧倒的に多い世間のΩに対する態度を急に変える事は難しい。けれど、うまく動けない狭いこの中でも、より良く生きて行く事は可能じゃないのかって……  夜明けの薄い青が更に薄れて溶けて消えて行く様に、ちょっと励まされた気がした。  相変わらず夢は一切見なかったけれど、規則正しく眠る事が出来ると言うのは僕が思っていた以上に心身の健康には重要なようで、野村さんのほっとした顔を見れたのが一番嬉しかった。 「正美さんは、ずいぶんと前にここを出て行かれたのよ」  夕食の仕込み中の他愛ない会話の中でそう言われ、正美さんの匂いの薄い部屋を思い出す。  薄暗くてうら寂しいあの感じは、やはり長い間使われていない部屋に感じる物で正解だったようだ。

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