317 / 665

青い正しい夢を見る 30

 相変わらず薄暗くて頼りない蔵の明かりは正美さんをはっきりとは見せてくれなくて、外見だけで判断するならば彼と街中ですれ違っても気づかない程その印象は朧で、陰に沈んで見える。 「あ  」  こんばんは?  お待ちしておりました?  お元気そうで?  どの言葉を言っても正美さんの逆鱗に触れそうだ。  発情期が来て汗が滴る程体が熱くなっているのに、睨む視線に含まれる憎悪に体の内が冷たくなる。 「あ の。   お会い、したか った です」  孕む怒気で皮膚がチクチクと刺激されて言葉もうまく出ないし、熱に浮かされた体は震えてしまって全く言う事を聞いてくれない。  料理されるのを待つだけの気分は余り良くなかった。 「ぼ  僕、正美さんと  お話が、したくて   」  力が入らずうまく動かない手はぶるぶると震えてみっともなかったけれど、それでも自分の事を書いた紙を持ち上げて正美さんに差し出した。 「こ れを、よければ  っ  」 「っ  次はっ!何の脅迫だっ‼」  空気を裂くような破裂音と共に手を弾かれ、持っていたメモはゴミのように潰されて床に叩きつけられた。 「あ  っ   」 「  やっぱり臭い   っこんな脅迫までして   !満足なのかっ⁉」 「きょ は    っ⁉」  一瞬で距離を詰め寄られ、降り上げられた足が問答無用で僕を蹴り倒して……  ガツンとこめかみを強かに打ち付けて呻いた隙に髪を鷲掴まれて、背骨の上を膝で押さえられた時はさすがに反射的に体が逃げを打った。  僕と正美さんの体格差では逃げるのにも限界があって、 「 ぃ、たい  です、 痛いっ」 「こうやってされるために、ここで、くっさい臭いさせて待っていたんだろうがっ⁉」  体重が圧し掛かる度にぎしりと骨が軋む恐怖に、僕は小さく何度も首を振る。 「ぼ く、は、  は 話が、     」  話が出来たらって。 「  こんな臭い、ぷんぷんさせといてかよ?」  破くように剥ぎ取られた下着を目前に突き出され、それが濡れて深い色に変化しているのを見て…… 「こ、れはっ  」  発情期に入ったせいでどうにもコントロールの効かないアナから自然と溢れ出してしまうものだ。  ワザとじゃない。  ワザとじゃないっ!  僕は話がしたくて……  なのに正美さんが傍にいると思うと、項がじんじんと熱さを訴えて、息がどんどん荒くなって行って……  正美さんの荒々しい手が乱暴におざなりな前戯をして、僕に圧し掛かってくる。それを押し退けて落ち着いてと言えばいい筈なのに、自分を押さえつける腕にうっとりして足を腰に絡めて、 「あっ   ぁんっ  奥に、もっと」 「うるさい」 「んんっ    ぃあ、  ぁ」  感情の籠らない声でそう言われると、従う気もないのに強請る言葉は消えて、僕が出せるのは小さな喘ぎだけだったけれど、正美さんはそれも煩わしそうだった。 「  く そっなんで、   オメガなんか   なんで  っ」  僕を抱きながら、僕ではなくΩしか見ない正美さんは辛そうで……  申し訳ないのに、喜ぶ体に抗えなくて……  『ごめんなさい』の言葉も言えずに、僕は蔵の板の床に押さえつけられながらただ、ただ、馬鹿みたいに正美さんのなすが儘に喘ぎ続けた。

ともだちにシェアしよう!