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青い正しい夢を見る 31

 蔵の床は幾ら掃除しても埃っぽさは抜けなくて、壊れた玩具のように放り出されているとその臭いが鼻に近いせいかよく臭う。それに湿っぽさが加わって、独特のむっとするような香りもするから、もしかしたら明日は雨かもしれない。  呻くような声を上げて僕のナカに精を吐き出した正美さんは、正気に戻ったのかまた小さく涙を流しているようだった。  加害者である僕が掛ける言葉はないけれど、その肩に手置いて慰める事が出来たら嬉しいと思って、軋む体を起こす。  ぱり と血で貼り付いた部分が板から離れる時に音がして、塞がっていた傷口が開いたのかまた新しい血が床に落ちた。 「   っ」  それを見て怯える正美さんが可哀想で、慌ててそれを脱ぎ捨てた服で覆って「すみません」と謝った。 「なん なんでお前が謝るんだよっその  それは、俺がっ    」  顔色を悪くしてそう言う彼は、故意にしたくてしたわけじゃないんだろう。  僕の発情期の臭いに当てられて……  そのせいでこんな事をしてしまったんだ。 「大丈夫 です   」  傷の出来ている所はズキズキと痛んだし、少しも平気な所なんかなかった。  容赦なく押さえつけられた背骨は軋んで未だに痛いし、乱暴に突っ込まれたせいかアナ周りに傷が出来ているのか、動く度に溢れ出す精液がピリピリと僕を苛む。  吐精して確かに気持ちは良かったけれど、それの何倍もの苦痛には顔をしかめるしかない。  けれどこれは、Ωだから仕方のない事かなって。 「   あの、僕  正美さんに読んでもらえたら って、メモを書いてて  」  潰されて床に転がったメモは僕達の下敷きになったせいもあってか汚れでくたくたで、手渡すのも躊躇われたけれど書き直す道具はないし、今回を逃したらまた何か月か間が空いてしまう。  一生懸命皺を伸ばして、それを正美さんに向けて差し出した。 「   イカれてんじゃねぇの?」  何を言われたか理解する前にひゅっと喉が詰まった感覚がしたから、理解するよりもその言葉の悪意に先に体が気づいたのかもしれない。  彼に届きそうだったメモ用紙が震えて、受け取って貰えずに迷子の子供のようで、僕は何も言えないまま言葉を探しあぐねてしまった。 「人を脅して、こんな事させて、その後に手紙とか」  正美さんの拳は固く握られて震えていて、僕に殴りかかりたいのを必死に我慢しているようだ。  この人に殴られるような事をしていると言うのがショックで、受け取ってもらえないメモを持った手をそろりと降ろして項垂れる。 「    ごめんなさい」  加害者の自分が、彼にこんな事をするのが間違っていたんだろう。 「   こんな事をしても無駄なのに」  吐き捨てるような言葉が僕が繋ごうとした繋がりを断ち切るようで、何も言い返せないまま正美さんの背中を見送った。  少し、前向きになってやって行けそうだと思ったのは、間違いだったみたいだ。

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