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花占いのゆくえ 9
高い天井と照明と白い天井と、薄暗い空気に泣きそうになって膝を抱えるけれど、それでこの孤独感がどうにかなる訳じゃない。
溜め息混じりに壁を見れば、花に囲まれた母と目が合った。
一抱え以上もあるサイズに自分の顔写真を引き伸ばして飾るなんてオレには考えられない事だが、それを生業にしていたせいか堂々としたそれは恥ずかしいからと外されることもなく、ずっとそこに飾られてオレを見ている。
「この前、顔見たのいつだっけかな」
花の顔 ……と父は母を見てうっとりと言う。
Ωの御多分に漏れず、線の細い人目を引く外見の母はその見た目を生かしてモデルをしていた。
していた だ。
母は人気の絶頂でカメラマンだった父と出会い、二人は最初の撮影の顔合わせですとん恋に落ち、母を人目に晒したくないと父は撮影拒否をし、母は他の人の目に映りたくないとその場でモデルを辞めた。
当時は上へ下への大騒ぎだったらしいが、今は風景カメラマンとその助手で落ち着いている。
それでも、撮影に出かけて帰ってくると風景写真よりも母を撮った枚数の方が多かったりするのだから、何をしに出掛けているか分からない。
「息子の写真は全然ありませんよーっと」
この家にある枚数より、お隣の薫の両親が薫と一緒に撮ってくれた写真の方が多いのは確実だった。
蝶子 と喜博 から一文字ずつ取って名付けて、……確かに二人の間に産まれた大切な物として扱われていた筈なのに。
「オレを必要なのって、 」
無条件で愛してもらえると思っていた両親の中に居場所はなくて、かけがえのない相手だと思っていた薫は別の奴のモノになってしまった。
やっぱり、オレを必要って言ってくれるのは運命の相手でしかないのかなぁ と思うと、今までのオレの人生全てががらんどうに思えてくる。
そんなことを考え始めてしまうといろんなことにうんざりとしてしまって、不貞腐れるようにして目を瞑った。
警察の取調室に毛が生えたような、ないよりまし程度の雰囲気を表す為に花の飾られた部屋の中、病院から相性のいい相手として紹介された『ミナト』と会うこととなった。
オレが着いた時には相手はすでに先に部屋で待機をしていて、遅刻したかと焦りながら扉を開けると花以外は殺風景な部屋の真ん中のテーブルにちょこんと身を小さくして座っている。
挨拶しながら近づいて最初に感じたのは、戸惑うほどに匂いがしないことだった。
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