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花占いのゆくえ 10
オレの戸惑いが相手にも伝わったのかお互いに気まずくて、会話の糸口を求めて相手のプロフィールの書かれた書類に視線を落とす。
『男/β』
性の欄に書かれたその文字に、更に動揺が出たのかミナトは困ったような顔をして小さく項垂れた。
「あの ベータでも、とお聞きしたんですけど、やっぱりなしですよね」
αは、どうしても番となるΩを求める傾向があるから……ミナトの言葉から察するに、何度かそれで断られたのかもしれない。
「すみませんでした」と自分が悪いわけでもないのに謝って立ち上がろうとするミナトの腕を、咄嗟に掴んで引き留めた。
「や、 違うんです、オレが年下なんで、大丈夫なのかなって思っただけで」
オレの指が回ってしまう程細い手首に驚いて慌てて手を離すと、相手も同じように驚いて身を竦めてしまっていて、やっぱりまた気まずくて言葉が出ない。
身長差のせいか、どうしてもオレを見上げることになるミナトはどこか怯えているようにも見えて、艶のある黒い髪の間から不安そうに黒い瞳が揺れている。
マッチングを希望すると言うことは、βはβでも薫と同じようにΩ寄りで、パートナーが居ないと日常生活が難しいのかもしれない。
「も 一回、座ってもらっても いいですか?」
怖がらせないように出来るだけ柔らかい声で言ったつもりだったけれど、ミナトは泣きそうな不安そうな顔のままだ。
同じくらいの年頃の、ぐいぐいとくる肉食系のΩしか相手にしていなかったせいか、怯える相手に何を話していいのか分からず、せっかく座り直して貰ったけれど会話らしい会話が続かなくて沈黙ばかりだった。
職業の部分に「大学生」と書いてあるせいか、同級生のノリで話すことも違うだろうし、大人とのような会話をするのも違うだろうし と考え出すと、言葉が本当に見つからない。
沈黙が増えるに従ってミナトはオレでも心配になるくらい冷や汗をかいているのが見えた。
「……」
「……」
αの見栄と言うのか、相手をリードしたいと言う気持ちがあるのだけれど、このままでは埒が明かないと腹をくくって正直な気持ちを口に出す。
「 あの、オレ 今回が初めてで、 それに大学生の人とどう言う話をしていいのか、全然わかんなくて……」
ひくん と小さな肩が揺れて、そこでやっとほっとした安堵の表情が少しだけ顔を覗かせた。
怯えていない顔は少しだけ薫に似ている気がして、オレ自身もほっとしていつの間にか握り締めていた拳を緩める。
「僕の方こそっ 何話したらいいかわからなくて……いつもマッチングする人は年上の人が多かったから……」
「そうなんですか?」
「この間は七十代の人とマッチングしちゃって」
「は⁉︎」と思わず声を上げると、びっくりしたのか目を丸くしてから小さくくすりと笑いを漏らした。
「さすがにびっくりでしょ?」
「あ……や……」
「まぁ、初回でフラれちゃったんだけどね」
匂い はともかく、見た目だけで判断するなら十分可愛い。
可愛い が男への褒め言葉かどうかは置いておいて、フることはあってもフラれることはなさそうな顔立ちなのに……
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