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花占いのゆくえ 13

「買い物は、臨海学校の物だったかな?」 「臨海?海浜学校?」 「海浜?って言うの?」 「海浜。ミナトさんは違うの?」 「僕の行ってた学校は臨海学校って呼んでたよ?」  海浜学校は海浜学校で、小さい頃は海の学校とか呼んでいたりもしたけれど、臨海学校は初めて聞く。  ミナトとはこう言う、小さな生活の中での違いを話すことが多かった。  薫とは小さい頃からずっと一緒にいたから、こう言った会話はしたことがなくて、なんとなく……新鮮だ。 「でも、きっと泊まるところは一緒だよね」 「あのくっっそ小汚いとこ」  ふっ と吹き出すミナトに合わせて歩みを止めると、オレの言った小汚いが笑いを誘ったらしく、笑いをこらえる為に口元を抑えて小さく頷いている。 「こぎ 小汚い!すごく  うん、控えめな表現だよね」 「同じとこ?」 「食堂の壁に人型の染みがあるところでしょ?」  指先で空中に人の形をなぞりながら言われて、そうだったと眉を寄せた。  食堂の片隅、何かで出来たシミが本当に人のようで、同級生が兄弟から仕入れてきた怪談話にそのシミが夜中に動く なんてのがあったりして、海浜学校の前後には必ずその噂が流れる。  それを、薫が怖がって…… 「   うん、同じとこだね」  薫はその食堂にいる間はオレの傍を離れなかった。  いつもはオレが頼る側なのに、そう言う時は頼られて……  オレだけを頼りにしてくれて…… 「喜蝶くん?」  腕に触れられてはっとミナトの方を向いた。  少し戸惑ったような顔になんでもないと笑い返して、オレの腕に触れている手を握る。 「えっ 」 「人も多くなってきたし、繋いでいこっか」  ね?とねだると、恥ずかしそうに身を引こうとしたミナトは諦めて小さくこくんと頷いてくれた。  手は……薫より少し骨ばってるのかな?  背は……一緒くらい?  多分、体重は軽め。  でも、黒髪と黒い瞳は同じ。  でも、  でも、  どんな人込みでも存在に気付く、そんな匂いがしない。 「  まずは、何がいるかな?服から見る?水着?   喜蝶くん?」  甘い、匂い。 「────」  くっと腕を引かれたけれど、足が動かなかった。  目の前の雑踏が霞んで、鼻先をバニラの匂いがくすぐる。 「 ────かおる?」  人込みに押されてよろけるようにしてオレの前に現れた薫は、びっくりしているオレよりも更に驚いているように見えた。 「き ちょ  」  大きな両目が見開いて、オレが映る。 「あぶな  」  驚きすぎたのか動けずにいた薫に人がぶつかってよろけて……手を出そうとしたその前に、薫の後ろから伸びた手が細いその体を抱き締めた。  薫の体を、他の人間が触っている。  ぎゅ と、胃が掴まれたかのような、熱湯を飲み込んだかのような感覚がして、息が詰まった。 「  あ、ありがとうございます。……喜蝶も買い物?」  自分を支えてくれた後ろの奴に声を掛けてから、気まずそうに問いかけてくる。

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