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花占いのゆくえ 15

 実際に薫のその部屋はオレにとって逃げ場だったし、受け入れてくれる場所だった。 「   っ、  かおる  」  窓辺に近づいたのか淡い影が布に落ちる。  微かにカーテンに浮かび上がる影から、携帯電話を耳に当てているんだろうと推測してしまうと、誰と電話をしているのかと考えが行くまではあっと言う間だった。 「あいつと、電話して んのか、な 」  オレとは違う、黒髪黒目の、真面目そうな、  奥歯がぎぎ……と軋む。  滑らか過ぎて一部の隙も無いガラスに爪を立て、ゆっくりと動く薫の影に力を込めて視線を送る。 「 ────開けろ こっちを、見ろ  」  自分でも驚くほど低い声が喉から出て、爪がきぃきぃとガラスを掻いて音を出す。 「 見ろ ……他の男なんか、見んなっ 」  低い声を絞り出したせいか喉の奥が焦れるように痛む。 「 ──── 開けろ!」  一際低い声だったと思う。  叫んだと同時にカーテンが割れて、緑の光の隙間から室内灯の黄色い明かりがちらりと零れた。  影の中にあっても白いとわかる肌と、きらりと光りを弾く目がそこから覗いて…… 「かおる!」  ぱちん とオレと視線が合った瞬間、薄く乗っていた笑みが消えて、眉が下がる。  また室内に帰ってしまう前に急いで窓を開けて、身を乗り出してもう一度「薫!」と呼びかけると、振り切れなかったらしく困った表情のまま何事かを告げて携帯電話を下ろした。  唇に人差し指を当てて、少しだけ窓を開けてくれる。 「どうしたの?」 「どう どうって……」  呼び止めたかった だけじゃ、もうダメなんだろう。  寝る前に少し話がしたかった では、もう…… 「  海の学校の、準備できたのかなって  」 「うん、今日全部揃えてきたよ」 「…………」 「…………」  言葉が続かなくて沈黙が落ちると、薫は様子を窺ってから「虫が入るし、もう寝るね」と窓に手を掛けた。 「まっ  オレもっ全部揃えて……」 「そう、派手なのはダメだけど、大丈夫?」  学校行事なので派手ではない物と注意されていても、オレの好みの関係上どうしてもギリギリな物を選んでしまうことが多くて、幾度も先生に小言を言われているのを知っているからだろう。  今日買った物を思い出して、「う 」と言葉に詰まる。 「あー まぁ」 「ダメそうなの選んだの?」 「ギリギリ……大丈夫だと思う」 「……あの人と、一緒に選んだんじゃないの?」 「見て貰ったけど、ミナトさんは学校違うし」  同じつかたる市でも学校が違えば校外学習の基準もずいぶん違う。  ミナトの通った学校は自分の学校より規則がゆるいのかもしれない。

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