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花占いのゆくえ 16
「そ か 」
「大学生だしね」
「 ん。か、可愛い人 だったね」
薫が俯いてしまうと影が濃くなるせいで表情が見えなくなってしまうから、つい身を乗り出して顔を覗き込もうとした。
なのに、逃げるように薫は身を縮めてしまう。
「喜蝶の好みの オメガらしい感じの、人だね」
「あ……いや、ミナトさんはオメガじゃなくって、ベータなんだ」
薫の返事を待ったけれど、小さく息を飲む気配以外は何も返ってこなくて。
何かあったのかと窓から屋根の上へと飛び降りる。
「薫?どうした?」
足の下で屋根材の軋む音がして、小さく聞こえてきた返事をかき消してしまった。
「ちょ、ちょっと聞こえなかった!そっち行くから待って!」
薫の家の屋根とオレの家の屋根は本当に近くて、ほんの数秒しかかからないはずなのに物凄く遠く思える。
向かいの窓枠を掴むとヒヤリと冷たくて、体温が奪われて行く感触にざわりと鳥肌が立った。
「なに?かおる?」
「なんて言ったの?」と覗き込んで尋ねるけれど、光が遮られて星のようなキラキラした雫が瞳に見つからないせいか、表情が読めなくて開きかけた口を閉ざす。
ちりちりと肌を刺すような不穏な空気は怒りと言うよりも悲しい気配がする。
「どしたの?」
「ん?」と首を傾げて顔を近づけると、やっとそこで薫が涙を堪えているのだとわかった。
眉が下がって、眉間に皺が寄って、震える睫毛と、噛み締めるように歪んだ唇。
怒りそうな、
泣きそうな、
悲しそうな、
「かおる?どうしたの? 笑って?」
薫がどうして突然怒りそうなのに泣きそうになっていのかがわからなくて、オレはおろおろとその前で薫の顔を覗き込むしかできない。
涙の一つでも零れてくれたらそれを理由にその頬に触ることもできるのに、滲んだ涙は目尻で小さな玉になっているだけで落ちる気配はなかった。
「泣くなら、オレのとこで 」
これはチャンスだと下心を隠しきれないままに手を広げると、オレを見上げた顔がくしゃくしゃっと歪んで小さな泣き声が零れ落ちる。
「 ────どうして、 ベータなの っ」
「えっ 」
「あれだけっオメガオメガって……オメガじゃないとって言ってたのにっ !なんでっ!」
なぜ?
それはもう、運命の相手を探す必要がないからだ。
運命と出会っても薫を愛し続けたいから運命の相手を探していただけで、薫に背を向けられてしまった以上……オレの中で運命の相手かもしれないΩを探す必要性はなくなってしまった。
求める気持ちはあるけれど、それは絶対じゃない。
「 だって、もういいから」
拗ねた子供のような顔をしていると自覚はあったけど、つんと唇を尖らせるのを止められない。
「も いい?そんな 子供のオモチャじゃ ないん、だから 」
わななく唇から洩れる言葉は途切れ途切れで、何か大事な言葉を聞き逃してしまうんじゃないかと必死に耳を傾ける。
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