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花占いのゆくえ 42

「わかった。でもオレはここ、使えないから隅っこ借りるね」  発情期のΩのフェロモンも感じるから、こんな中に居たらラットを起こすかもしれない。小さく頭の隅で鳴る警鐘に従ってその部屋には近づかないと決めた。 「じゃあ、こっちの隅っこで」  大きな白板の方へと腕を掴まれて促されて、ブレザーに手を掛けられる。  腕を掴んだり……服を脱がすために体に触れたり……  ミナトが気にしない質なのか、オレが気にし過ぎるのか、妙にボディタッチが多いように思う。  腕に、肩に、胸に、体が触れてなんとも言えない据わりの悪さを感じて逃げるように体を捻った。 「あの  ちょっと あんまいい匂いさせながら触らないで」  ネクタイを外そうとしてきた手をやんわりと避けて、そう断って距離を取るとミナトは「あっ」と言う顔をして顔を赤くする。 「ごめ  そんなつもりじゃなくて」  耳の先まで真っ赤にして俯くミナトは、オレから服を受け取って恥ずかしそうにそれに顔を埋めた。 「喜蝶くんがいい匂いするから、つい だよ」  そう言うと悪戯っ子のようにミナトはふふ と笑って見せる。  ポーズをとる際に、腕の位置が……とか、顔の向きが……と言って体に触れるのは普通のことなんだろうか?  段々濃さが増しているようなミルクの匂いから出来るだけ意識を反らしながら、指定されたポーズをとる。  十五分のポージングと十分の休憩、オレのすることと言ったらそれの繰り返しで、ミナトはそんなオレを見ながら目の前のイーゼルに乗せたキャンバスと真剣な表情で向かい合っていた。  本屋で見た真剣さとはまた違う、自分の世界に入り込んでしまったかのような表情だ。  もしかして、性的な目で見つめられるんじゃないか と。  もしかして、これ自体がそう言う目的の為の口実だったんじゃないか と。  疑うことは幾らでもできたけれど、まっすぐなオレを見ているようでその背後を見詰めている真剣さに疑うことは早々に諦めた。  淀みなく動く腕の動きを視線だけで追って、こちらが観察されるのと同時にミナトを見詰め返してみる。  マッチングの好みの欄に黒髪黒目と書いたせいか、ミナトの髪も目も綺麗な黒色だ。薫よりも少し細いような気がするからだいぶ瘦せ型で、手足は細い。  それから、甘いミルクっぽい匂いがする。  あとは、集中すると瞬きが少なくなって、百面相をするのが……面白い。 「 ────疲れた?」  ぽつんと問いかけられて、慌てて「大丈夫」と返す。  人を良く見ているのかな?と思ったり……

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