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花占いのゆくえ 53
六華にも断られ、薫は渋々と言った様子でそれを受け取って口をつける。
「……ありがと、美味しい」
「んで?五限の宿題は?わからないとこなかった?」
「だい 大丈夫」
「古典の課題集めるのは?手伝う?」
「だ、大丈夫だってっ」
居心地悪そうにグレープフルーツジュースを飲み干して、薫はオレから距離を取るようにカタンと椅子を引く。
「な、な、なんでさっきから喜蝶が世話を焼いてるの⁉」
不思議な物を見たように言われると、それはそれで心外だ。
「なんだよ」
「ジュースだって、いつもなら薫にぱしらせるのに!課題集めとかっむしろ薫にやらせてたのに!」
そうだったかな と、心当たりがなくもない。
甘やかしてくれるから、それに乗りに乗った覚えはある。
「だから、ちゃんと口説いてみようと思って」
「は?」
ぶわっと顔を赤くして、急いで立ち上がろうとした薫を捕まえて膝の上に座らせると、六華が困惑したような ケダモノでも見るような、そんな顔でオレを見下ろす。
膝の上でジタバタと逃げようとする薫を抱き締め、首を傾げてその黒い瞳を覗き込む。
「かおる、いや?だめ?」
水を湛える表面に光が反射して、それにオレが映っている。
薫が、オレを見てくれている。
堪らなくそれが嬉しくて、自然と顔が笑うのを止められない。
「だ、だ、 」
「騙されちゃダメだよ!」
絡んだ視線が六華の乱入で途切れて、薫の「だめじゃない」の言葉を遮った。
「っ!六華!」
「その顔そんな風に使うの禁止っ!」
ぎゅっと抱き締めている薫とオレとの間に割り込んでくるから、しかたなく薫を手放してむっと唇を曲げる。
「かおる、オレ 好きなんだけど」
「ちょっと!俺を挟んで止めてよ!」
「抱きしめたいんだけど」
「だから挟んでそう言う話しないでって!」
「薫のこと、愛してるんだけど」
「あ゛ぁ゛──っ」
オレと薫の間に挟まれて言葉を聞いていた六華が耐え切れなくなったのか、真っ赤になって声を張り上げた。
「なんだよ、うるさいな」
「教室でそんなこと言う喜蝶の方が問題でしょ!俺が悪いみたいに言わないでよ」
ぷぅっと膨れる頬を突いてやりたいと思うけど、薫の前だからぐっと我慢する。
六華に以前言われたことを踏まえて考えると……薫の目の前で、そう言うのは良くないんだろう。
もっとも、オレからしてみれば六華とふざけていたからなんだ?と言う感じなんだけどな。
面倒だと思いもするけれど、少しでも薫の好感度を上げておきたい。
「ああああ、あー……ぃしてるだとか、そう言うのは二人きりの時に言ってよぉ……」
六華は気まずそうにそう言って、赤くなった顔をぷいと横に向けてしまった。
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