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花占いのゆくえ 54
そんな態度を見てから、薫は緩く首を振る。
「喜蝶……ごめん、困るんだ」
困る の内容は想像力の足りないオレでもすぐにわかる。
薫はあの男に対して操を立てているんだ。
チリ チリ と内臓を焼くような嫌な気分に顔を歪めると、六華にそれを見られていたのか袖を軽い力で引っ張られた。
こちらを見上げる何かを物語る両目と、その上の八の字の眉と。
「困らせるな」か「やめてあげて」かどちらかだろう。
反論してやろうと口を開きかけたタイミングで授業開始のチャイムが鳴ってしまい、申し訳なさそうに項垂れる薫を残して席に戻るしかなかった。
『薫を困らせないであげて!』
そう机の引き出しに突っ込んであった携帯電話が文字を映す。送り主は確認するまでもなく六華だろう。
困らせるな で、合ってたわけだ。
『関係ないだろ』
『ないけど!なくはないよ!』
『どっちだよ』
『薫がどれだけ悩んで須玖里さんと付き合おうって決めたか知らないくせに!』
『知らん。だから別れろと思ってる』
ぽこ ぽこ と怒っている羊のイラストが幾つも送られ、流石に辟易して無視をすると今度はこつんと小さな衝撃が頭に当たった。
ノートの上にころりと転がり落ちたのは消しゴムの小さな欠片だ。
面倒くさく思いつつ振り返ると、眉を吊り上げた六華が第二弾の欠片を構えてこちらを見ていた。
『お人よし。お前はもういいのかよ』
あれだけオレと張り合って薫を取り合ってたのに、あっさりと諦めてしかも応援までしてしまう六華のお人よしさ加減は理解できない。
欲しいと思ったのなら引かずに、全力で挑まないと欲しい物なんか手に入らない、諦めてしまえばそれまでだ。
それで悲しんで嘆いてみても、手の中に何もないことには変わりない。
『よくないけど、自分の気持ちを押し付けるばっかりなのはやだ。薫のことまだ好きだし、恋人になりたいけど、それで困らせたり悲しませたりするのはやだ』
『それで自分がガマン?』
『それで好きな人が幸せになれるなら、自分は我慢するもん』
『バカじゃねーの?自分と相手で幸せになりましたってのが鉄則だろ、悲劇の主人公気取ったって虚しいだけで報われないだろうが』
『でも、好きな人が幸せになってくれたら、嬉しくない?』
なんだそりゃ。
『相手を愛してて大事だから、泣かないように自分が耐えるって、そんなにおかしいかな』
返事に詰まって返信の間が空いたせいか、六華はそう送ってきた。
後ろを振り返ると、しょんぼりと肩を竦めて携帯画面に視線を落としているのが見える。
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