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花占いのゆくえ 57
しっかりスプーンで掻き混ぜてから、「はい」と差し出してくれるのだから、忠尚に向けてのニヤニヤが止まらない。
「どうしたの?そんな顔して……」
ミックスジュースを飲もうとした手を止めて、オレと忠尚の視線を感じたのか薫は不思議そうだった。
「なんでも。オレのこと全部わかってくれてるのが嬉しいなって」
「? 何?」
きょとんと首を傾げる薫は、ここまで言ってもぴんときていないようだ。
カウンターの向こうで、気配だけが刺々しくなっていくと言うのに、こう言う薫の鈍いと言うか鈍感なところは直すべきじゃないかな と思わなくもない。
ただ、この天然さがあるから長年に渡って気付かれずにマーキングすることが出来たんだろうけど。
「そう言えば昨日の用事って何だったの?」
「あ それは 「オレとデート」
適当な言い訳を言われる前に割り込んで言ってやると、忠尚の顔色が変わった。
「ち、ちがっ 何言ってるの!大学までついて行っただけで……」
「大学に?」
「喜蝶がモデルを頼まれて、それで あっ」
がた とスツールを鳴らして飛び上がった薫に、オレと忠尚はびっくりして言葉を失う。
「喜蝶!今日もモデルに行かないとダメだったんじゃ⁉」
「え?あー……そう言えば今日もお願いって言われてたっけ?」
安請け合いしたはいいものの、面倒臭いかそうでないかを聞かれれば、ただただ面倒だ。
それにこの二人をこのまま残して行くのも嫌だ。
オレがいなくなった後、この二人はどうするのか、考えるだけでも暴れ出したい気分になる。
「あー……じゃあ今日は止めとく」
別にボランティアのようなものだし、律儀に毎日行かなくても構わないだろう。
「で、でも、ミナトさん、もうすぐヒートって言ってたし、提出日が決まってるなら急がなきゃいけないんじゃ……」
昨日、あれだけやきもちを焼いておいてそれでも相手に心配をするのが薫だ。
長所だけど、短所だと思う。
「いいって、電話でも入れとくよ」
そう言って鞄の中を漁るも……携帯電話がない?
中身がなくて薄っぺらい鞄の中なんて、そう探せる場所があるわけでもなく。しばらく記憶を遡ってみて、最後に使ったのが六華とのやり取りだった事に気が付いた。
あの時、机の奥に押し込んで……きっとそのまま忘れてしまったんだろう。
わざわざ取りに戻るほど、なくて困る物じゃない。
「あー……薫、携帯貸して、ちょっと断りの電話入れるから」
幸いミナトの携帯電話の番号は覚えている、特徴的な数字の並びだったせいか覚えやすかった。
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