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花占いのゆくえ 58
手渡された携帯電話を受け取ってボタンを押す が、やはりミナトが知らない番号だからかなかなか出る気配がなく、小さく呼び出し音を鳴らす携帯電話を眺めながら、なんとなく溜息が出る。
「 出ないし、もういいかな……」
「一度引き受けたことを、ずいぶん安易に反故にするんだね」
「………」
「口約束だからかな?指切りげんまんの方がちゃんと守るのかな?」
クソださい眼鏡の奥の目を睨み返し、ぷつりと呼び出し音が途絶えて小さく「もしもし?」と聞こえてきた声に、自分であることと遅れて行くこと、それから薫を連れて行く旨を伝えて返事も待たずに通話を切った。
不機嫌そうな薫が今日もバスの座席で揺られている。
敢えてオレとは違う席に座るから、慌てて追いかけてそちらに移動するも会話はなかった。
『約束しちゃったし、薫は連れて行きますね』
呆れ返って口をぱくぱくさせる薫の腕を引き、適当な代金を置いて店を飛び出したのだが、揚げ足取りのような質の悪いこの行いに対して薫は本気で怒っているようだ。
覗き込んで「ね?」とねだれば許してくれるかもしれないが、大人の余裕ぶってオレ達を送り出した忠尚に苛ついてそれはそれでしたくなかった。
子供のようなことをしたと思う。
しょうがないなぁって笑って欲しい。
こっちを向いて、オレを見て欲しい。
「 かおる」
小さく甘える声を出してみたけれど、薫は微かに肩を揺らしただけでオレの方を見ることはなくて……
「怒ってる?」
ごめんとでも言って謝って見せればいいのかとも思うけれど、それで薫の機嫌が治まるとも思えなかった。
「だって、好きな奴が他の男といたら嫌だろ?オレは薫のことが好きだし、オレ以外の臭いなんかつけて欲しくないし、六華とだって……つるんで欲しくない」
「 」
「薫のこと独り占めしたいし、誰も見て欲しくないし、見られたくないし。閉じ込めて、オレだけ見てて欲しい」
「 」
「だめ?かおる。好きなんだよ、すごく、すごく、愛してる」
言葉を募るほどに薫には届かない気がして、それでもなんとか気持ちを届けたくて言葉を重ねるけれど、どんどんチープになってしまい、続ける言葉を失って唇を噛んだ。
言葉が途切れたのを不審に思ったのか、それともいい加減腹に据えかねたのか怒り顔の薫がちらりとこちらを見た。
それだけで堪らなく嬉しく思えて、胸がぎゅっと詰まる。
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